かならずお読みください注意事項

ScanSnap の修理

紙送りローラーの交換

ScanSnapの画面

富士通 ScanSnap fi-5110EOX3

0 はじめに

ある日職場で『紙の書類』に必要事項を記入して提出することになりました。こんな時は紙の書類をpdf化して、PDFーviewerで必要事項を記入してメールに添付して送信するのが手間も時間もかかりません。しかも手元にファイルが残りますので後日(多分来年の同じ時期)も楽ができます。さらにこれを受け取った方も後処理で楽ができます。これだけメリットがあるのにまだまだ『紙の書類』が多いところに我が国の悩みのタネがひとつがあるように思います。それはさておき....

ところがその日はScanSnapを起動するとモータが軽くうなりエラーが表示され止まってしまいました。前々からいまいち調子がよくなかったScanSnapがとうとう動かなくなってしまいました。今日のお話はここから始まります。

1 ScanSnapとは

富士通のScanSnap はオートシートフィーダー付きの両面スキャナーです。これを使うと多数の両面印刷された紙を連続で効率的に電子化でき、e-文書法(法人税法や会社法、商法、証券取引法などで保管が義務づけられている文書や帳簿、請求書、領収書などについて、紙媒体だけでなく電子化した文書ファイル(電磁的記録)での保存を認める法律)に対応した製品です。類似のスキャナはいくつか製品化されていますがそのなかでもよく知られた製品です。現在(2021年6月)もモデルチェンジを繰り返して存続しています。今回不調になったのは初期の、fi-5110eox3 というモデルで既に購入して15年経過しています。

2 書籍の電子化とその使い道

このような変わったスキャナを使っている一番の目的は、書籍の電子化です。例えば一般の書籍を電子化する場合は、まず製本を分解しバラバラの紙の集まりにします。これをScanSnapにかけると毎分25枚の両面スキャンで電子化できます。例えば200ページの本が単純計算で約8分で電子化できます。ただし本を破壊しない方法を使ったり、電子化データをむやみに配布したりすると著作権保護の規定に反することになりますのでその点に注意が必要です。さてこのようにして作った電子化データを何に使うのでしょうか。

けがや病気で手や指に麻痺が残ると本や新聞を読むのが不自由になることがあります。この場合本や新聞の保持とページめくりなど紙を扱う動作がうまくいかないのです。これは読書がお好きな方にはかなりお気の毒なことになります。私の知っている範囲でも読書をあきらめ山のような愛蔵書を庭で燃やしてしまった人もおられます。二重の意味で全くお気の毒なことです。

この問題を解決する方法はいくつかあります。まずページめくり機を使う方法があります。ページめくり機は読書のための専用機械で高価ですがかなり大きな本も上手にめくることができます。

ScanSnapの画面

ダブル技研 りーだぶる3

このほか書籍を電子化してパソコンやタブレットで読む方法があります。その人の不自由にあわせてスイッチの工夫などでページをめくることもまた電子化した何冊かの本を取っ替え引き替えすることも比較的簡単です。マンガや写真集でも同様のことができますが、A4よりも大きな本ではやや手間がかかるようになります。

家の床が抜けるほど本があるという読書家も珍しくはありません。もしこのような人が不自由になったとしてもこの手がありますのでぜひ燃やさずにおいてほしいと思います。

また身体の不自由はないけれど、本の置き場所に不自由がある人もいます。この理由から同じやり方で大量の本をパソコンに入れている人もいます。またLPやCDなど音楽でも同じことができます。こちらもお身体の不自由のありなしに関わらず音楽の好きな方ではよく行われている方法です。コレクターの悩みはどなたも似ているもののようですね。

3 コンテンツ重視のすすめ

けがや病気で身体が不自由になりことばによる意志疎通が思わしくなくなると、パソコンなどを使用した改善の試みが、医療や福祉の方面からよく提案されます。しかし意志疎通は必要ではありますが、特に関心があり熱心な人はそれほど多くありません。

それが読書や音楽に興味がある人となるとずいぶん多くなります。さらにテレビ、ビデオ、youtubeに興味がある人となるとずっと多くなります。さらにLINEなどのSNSやゲームなどが加わるとまさに圧倒的な状況になります。

これが今時だれにとってもごく普通のノーマライゼーションです。コミュニケーション自体はその一部でしかないこともあります。さてその人は現実にどうなのかを早い段階で見てみましょう。現にコミュニケーションよりもゲームが大事という人はかなりいます。 ま、どっちにしてもやる仕事はあまり大きな違いはありませんが目標はずいぶん違います。

このようにパソコンなど情報機器の提案や検討をする際にはお使いになる方に合わせた、機器や方法の選定と並んでその道具で何をやるかのコンテンツ選びもかなり重要になります。

ここで書籍の電子化データの用途についてすこし補足します。電子化データは読み上げソフトで音声として聞くことができます。また点字ディスプレイを使い点字として読むこともできます。従来これらは音訳、点訳のボランティア活動に大きく依存した分野でした。そして担い手不足が深刻であることはご存じの通りです。これらの問題解決に電子化データが役立つことと思います。

15年も使用して今回調子が悪くなったScanSnapもすでにたくさんの本の電子化のほか日常的な用途にも使用していました。ただもう古いのでWindowsXPのパソコンでないと動きません。このほかの同様の周辺機器も一緒にオフラインのXPパソコンで使っています。 すでにこのScanSnapは十分に元は取れています。しかしできるなら安く修理してお金を節約したいという事情もあります。同様の事情はどなたにもおありと思います。

4 調査

15年も使った道具に今更ケチをつけるつもりはありませんが、それでもケチをつけるとしたら、紙送りローラーの材質に問題があったようです。ということはよその人のところでも同じことが起きていることでしょう。(この発想が大事です。自分だけが苦労しているならつらいですが、同じ苦労をしている誰かがどこかにいて何とかしているなら、自分でもできるかもしれないと考えて行動することにつながります。)

そこで、「ScanSnap ローラー ベタベタ」で検索してみました。すると何件か記事が見つかりました。調べてみるとScanSnapにはこれまで39(!)ものモデルがありますが、(https://ScanSnap.fujitsu.com/jp/archive/)そのうち初期のモデルでは紙送りローラーが劣化して変質、変形し、ベタベタになる問題点があったようです。現在私の手元で起きていることと全く同じです。

これに対して当時メーカも交換用純正部品を販売していたようです。しかし今ではこれらは販売は終了しました。これに代わって外観がよく似ている海外製の交換用部品が現在でも入手できるようです。しかしレビューを見ると、どうもトラブルが少なくないようです。(ここで人柱になられたみなさんに深く感謝。)

また中には問題の紙送りローラーを他の部品の流用や部品の自作で修理した事例も何件か見つかりました。これらを総合すると、①分解して紙送りローラーの軸2本をとりだし、②ベタベタを取り除き、③同じ寸法の適切なローラーを取り付けて元通りに組み立てれば動くようになる可能性もあるようです。

記事を見た限り特に難しい作業ではないようです。(あくまでも個人的感想です)このまま迷っていてもスキャナは廃棄物にしかなりません、いくらかのお金と時間をかけてもやってみる価値はあると判断しました。また環境のためにもちょっといいでしょう。

5 調達

この取り組みの一番のポイントは交換用ローラーをどうして手に入れるかです。 この部品に必要な条件をまとめると以下のようになります。

1. 表面にある程度の摩擦があり紙送りに支障がないこと
2. 直径6mmのステンレス軸に挿入し、空回りや位置ずれせずしかも位置の変更調整が可能な程よいはめ合いであること。(空回りすると紙送りはできません。またはめ込みが固く力を入れたらローラーが割れたなどのレビューも見つかりました。この条件が一番むつかしいと思います。)
3. 記事を総合すると、ローラー部品の寸法は内径6mm、外径12mm、長さ20mm、これが4個必要です。

修理を試みた他の人たちは、どうやっているでしょう

ある人は、内径6mmのウレタンパイプを購入して旋盤で外径加工して使用し、修理成功しています。(旋盤をお持ちとはうらやましい)

またある人は、海外のサイトから交換用のローラーを購入しました。しかし穴寸法の誤差が大きく追加工をして修理成功しています。取り扱い業者によって穴が小さくてはめるときに割れたとかいろいろあるようです。

そしてある人は、ゴム製グロメットをローラーの代わりに使用しました。外径がやや大きくても正常に動作したそうです。ただし耐久性は疑問とのことです。

以上のみなさんの経験より、ローラーをいちから手作りするよりもホースやパイプなど一般的な工業製品を流用して必要ならそれに最小限の追加工して手間やお金の節約をすることにしました。ホースなら種類も色々あり切断も容易です。また寸法精度もまずまずで表面の摩擦も耐久性も十分期待できます。価格も安く試してみるには好都合です。早速ホースの実物を確認しに近くのホームセンターに行ってみました。

店には様々な用途品種の切り売りのホースが約20種類ありました。今回の注目点は寸法のみです。捜したら、内径6mm、外径11mmの耐圧ホースが見つかりました。外径が目標より1mm小さいです。しかし元々のローラーは劣化しグニャグニャでしたがそれでも何とか使えていました。これと比べればずっとまともです。どうしてもだめならテープを貼って太くすれば何とかできるでしょう。必要量は8cmですが失敗したときにために30cm購入しました。価格は税込み59円、閉店を知らせる蛍の光に送られ店を後にしました。

6 分解組み立て作業

分解作業について大変詳しく説明されたサイトもありますのでそちらを参照したら順調にできました。またさらに自分でも下記の写真を取りながら分解をすすめました

作業の概略をまとめると
1 底面のねじを外し金属部品を引き出す。そこに基盤があるのでコネクタを5個外す

底部基盤の写真

2 排紙口周囲の樹脂製前カバーを外す。同様に後ろカバーを外す。これで駆動関係のモーター、軸、ベルト、プーリが見える

3 ベルトを外す

駆動部の写真

赤矢印:ベルトテンショナのロックねじ、黄色矢印:紙送りローラー軸 前、緑矢印:同 後

4 排紙口から見える前方の軸をはずす。両端の黄銅製(?)金属を軸周りに1/4回転させると固定が外れるので引き抜く。

5 後方の鉄板を外す。

背面鉄板の写真

この写真いっぱいに写っているグレーの鉄板部品を外す

6 基板が2枚見える。緑の基盤はねじ2本外してとる。黄色の基盤ははまっているだけ取らない方がいい。

底部基盤の写真

7 基盤の奥の樹脂カバーを外すと後方の軸が見える。赤矢印:樹脂製軸カバーのつめ

底部基盤の写真

8 カバーを外すと後方の軸が見える。前の軸と同じく外し引き抜く 赤矢印が黄銅製の軸受け兼固定金具

底部基盤の写真
底部基盤の写真

9 べたべたの掃除
10 交換用ローラーを取りつける
11 元通りに組み立てる。耐圧ホースのメッシュが見える。

背面鉄板の写真

他のサイトの写真と見比べながら作業を進めてください。このサイトでは、他のサイトではあまり詳しくない部分の写真を選んで載せています。

軸や周辺にへばりついたローラーのネバネバは消毒用エタノールを使うと粘りが少なくなり除去しやすくなりました。しかし一連の作業の中でこれが一番時間がかかります。

私の作業時間は9の掃除を除いて、20-30分程度でした。山場はコネクタの取り外しと取り付けと次に説明するローラーの組み付けです。

工場の組み立てラインではこれを1,2分で組み立てると思います。このような作業を可能にするため、はまっているだけ乗っているだけの部品がいくつかあります。不用意に分解作業をすると外さなくていい部品まで外れてしまい後で組み立てできなくなりますので注意が必要です。

7 ローラーの組み付け

カッターで切断したホースに軸を通してみると、ちょうどいい具合でした。しかし将来経年劣化してローラーが空回りすることもあるかもしれません。そこでローラーの位置変更できるぎりぎりまで固くすることにしました。軸にセロテープを何回か巻きつけてローラーと軸の固さの変化を見てみました。その結果2回巻くとローラーの軸方向の位置は変更できる範囲で回転方向には紙送りに十分な程度に固くなることがわかりました。2本の軸の4ヶ所にローラーをつける際には、それぞれのローラーが均一な固さになるようにセロテープの厚さ(巻きつけ量)を調整しました。これで紙の偏りも防ぐことができるでしょう。

8 試運転と考察

修理する前は、何しろベタベタがひどく、紙送りローラーは回転もできずただモーターが唸るばかりでした。それがすっかり元通りの聞きなれた音に戻りました。試しに手近な紙をスキャンさせてみましたが問題なく電子化されていました。

今回の作業で紙送りローラーの外径が12mmから11mmに8.3%ほど小さくなりその結果紙送りの速度も低くなりました。これにより結果が縦に長くなるのではないかと想像していましたがそんなことにはなりませんでした。認識結果もA4のサイズでした。

ご存知のようにScanSnapのソフトウエアには原稿の傾きを補正する機能があります。考えてみると紙送り速度の低下も(そして多分増大も)補正しているのではないかと想像します。この機能があれば紙送りローラーの摩耗や劣化によるスリップなどにより認識結果が縦に伸びるのを防止でき結果的に製品寿命を伸ばすこともできます。

ただしこちらの方の例のように上下方向に行ごとに伸び縮みするのは、ローラーの一部分だけスリップして紙送り速度が不均一に速くなったり遅くなったりしているのが原因と思われますが、このような場合の補正はできないのだと思われます。

このように仮定すると、例えばゴム製グロメットや手作りローラーなどいくらか乱暴な部品を紙送りローラーに使用して外径がいくらか増減しても認識結果にはとくに影響しないと考えられます。これはあくまでも想像ですが、ScanSnapの紙送りローラーの修理を考えるには何かのヒントになるかもしれません。ご参考まで。

9 おわりに

今回も低コストで道具を何とか修理した事例をご紹介しました。これではメーカーの商売もあがったり?どうもすみません。

というのも、以前私が若かった頃、(かなり昔ですが)ご本人もご家族も希望されているプロジェクトがお金の都合で途中でとりやめになってしまいがっかりしたことがありました。いつに時代でもお金のかかる企画は持続困難に陥りやすいもののようです。それ以降、途中で止まらないように、できるだけお金がかからないように仕事をするように心がけています。そしてこれが私のSDGsなのです。

これから日本もずいぶん貧乏になっていくらしいです。ずいぶん派手にお金を使っていますのでたぶんそうなるような気もします。それでも大事な活動を持続していくためにはコストカットとかスクラップアンドビルドとかで経済の偏差値をあげていくだけでなく、必要な価値を作り維持していくように努力することが大事だと思っています。

参考URL


2021/06/18 公開

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