かならずお読みください注意事項

レッツ・リモコンの代替を考える

レッツ・リモコン生産中止

0 はじめに

高位頸髄損傷や神経難病など重い麻痺のある患者さんで、病室のナースコールボタンが使えない場合にはナースコールの支援がまず必要になります。

このような方々は多くの場合、『もう自分では何もできなくなった』などと悲観的にお考えになりがちです。そこから、『自分でもできることがないわけではない』と考えを切り替えていただきたいところです。

その取り組みの第一歩としてナースコールの支援を行います。その結果なにもかもおまかせの状態から、用があるなら自分で呼べるようになるとだんだん気持ちも変わっていくようです。

現に、ごく限られた動きでパソコンを操作して、メールやラインをやり取りしたり、ショッピングしたりゲームしたりしている人もいます。その人たちもまずナースコールから始め、そこから少しづつ難しいところ(今回の話題のリモコンもこれに相当します)に挑戦して、パソコンまでたどり着いたわけです。 このようにあきらめかけた、パソコンが再開できるとそれが大きな自信に繋がります。

ご高齢の方の場合は、パソコンを希望される方はぐっとすくなくなりますが、テレビを自分で操作したいと思われる方はかなりおられます。

こちら のページではこのような取り組みを紹介しています。

1 レッツ・リモコン生産中止

ある時、レッツ・リモコンの取説を入手するためにパナソニックのサイトを訪問するとそこには『レッツ・リモコン2021年3月生産中止』の表示がありました。急いで販売サイトをいくつかみるとどこも在庫なしでもはや入手困難になっています。

レッツ・リモコンはわかりやすく使いやすい良い製品でしたので残念です。これで手持ちの品を現場で使うことはできますが、これからは入手困難の製品を患者さんに紹介するわけにもいかなくなりました。

また、トクソー技研のテレビトコールも調べてみると、販売サイトに写真が見られますが、製造元のサイトにはもう見当たりません。多分こちらも厳しい状況なのかもしれません。 しかし、テクノツールのなんでもIR2は変わりなかったのでこちらは一安心です。

このような福祉機器の生産中止や販売停止はこれまで何回か経験しましたが、またまた起きました。最近多いような気もします。これらの製品を使って生活している人たちの不満と不安を想像するとつらいものを感じますが、ボヤいていてもしかたありません。

さて、この機会ですからここで久しぶりにリモコンについて調べてみました。 そこでわかったのは、見やすいデザインと大きなボタンで主に高齢者を対象とした製品、つまりレッツ・リモコンSTに相当する製品は、かなり種類もあり通販サイトでも入手可能です。『リモコン 高齢者』や “remote for people with disabilities” などと検索するとたくさん見つかります。またamazonUK(イギリス)では、日本への発送もしてくれるようです。こんな事ができるのですね。

しかし、より重度な人を対象としたレッツ・リモコンADのワンスイッチスキャンなどひと工夫ある商品やテレビトコールのような商品は、どうも見つけるのが難しい状況です。海外では見つかりますがどうも値がはります。

さて、この状況でどうしたらいいでしょうか。これが今回のお話です。

2 では代わりにどうするか

リモコンの小さなボタンが苦手で大きな押しボタンのリモコンがほしいなら市販品から探すのがいいでしょう。お近くのホームセンターでも何種類かあるでしょうから手にとって試してみるのもいいでしょう。

そのような市販品のリモコンでは難しい場合は、スマートリモコンで家電製品を操作する方法を検討してみてください。 スマホで使用できるスマートリモコン製品は何種類か存在します。これを一般向けのやり方で準備し、言葉が使えるなら音声入力で、言葉が不自由でもスイッチ操作ができれば、さらに eSSENTIAL Accessibilityを追加インストールし、顔認識マウスや外部スイッチで操作することができます。これが多くの方にとって現実的な手段と思います。

この方法の特徴はすでにある商品とアプリを組み合わせて実現できるため、時間も費用も抑えることができるところです。

様々な理由で上の方法が利用できない場合もあるかもしれません。その場合にはスマートリモコンのAPIを使い、専用アプリを作り操作する方法が考えられます。

参考https://blog-and-destroy.com/12357
参考https://blog-and-destroy.com/39447

スマートリモコンのひとつ、Nature Remoには専用のAPIが公開されています。これを利用してリモコンに指示を与えたり、情報を受け取ったりするプログラムを作る可能性があります。オーダーメードになりますので時間やコストはかかりますが、使用者の事情に合わせて操作系を設計して作ることも不可能ではありません。費用と時間がかさみますのでそれに見合った動機の確認が必要でしょう。

このようなものを自分で作り出したいとお考えのかたには、ラズベリーパイに赤外線発光装置をつけ、専用プログラムで駆動する方法があります。

参考https://ponkichi.blog/smart-remocon/

研究テーマとしても、勉強材料や教材としても有望です。発売からもう10年経ちましたので、『もう家族のためにひとつ作った』という人もいるかもしれません。また予想以上に費用がかからないところにも驚きます。

さらに昔やったように、リモコンを分解して配線を取り出し工夫してon/offするアイデアもあります。しかし耐久性と信頼性にいまいち問題があるでしょう。

3 おわりに

名古屋のアイホンという会社からECSが発売されたのはもう30年以上前のことです。これが不自由な人が家電製品を自分で操作できるようにする取り組みの最初の到達点だったと思います。これは非常に高価な『ハイテク』でなかなか手に入れるのが難しい機械だったと記憶しています。

その後も様々な製品やアイデアが現れましたが、いまでは特に不自由のない人がさらに便利になるためのスマートリモコンが商品化されていて、これがなかなかよく売れているようです。これを使えば不自由のある人も安価に恩恵を受けることができるでしょう。

よい時代になったと言えばたしかにそのとおりです。

かつて『民間活力』と期待され多くの福祉機器を世に出した、名の知れた企業も苦しい時代を迎えているようです。どうやら持続可能とは簡単にはいかないもののようです。

またその一方で、亡くなった畠山さんとアイホンのみなさんがかつて苦労されたことが、いまではラズベリーパイを使って個人的に実現できるようになっています。それどころかよくよく見るとこれまでにない機器も実現できそうな可能性さえ持っています。

よい時代になったと言えばたしかにそのとおりです。

これから手配しても『在庫なし』という話が多くなるのかも知れません。こうなるとますます現場の個の能力が期待されることになるようです。

今回は、製造中止になったレッツ・リモコンの代替について考えてみました。しかしそれにしても、惜しい製品がなくなりました。

参考URL


2023/06/09 公開

研究企画課リハ工学科にもどる ←もくじはこちらです