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しゃべる文字盤 当院での事例紹介

しゃべる文字盤シリーズを開発した一番の目的は,『伝の心』や『レッツチャット』など従来の製品をなかなか十分に使いこなせない人たちに,『コミュニケーションエイドの初心者コース』を提供することでした.

最近,大変コミュニケーションの困難な方とおつきあいさせていただきましたので,その事例をここでご紹介いたします.


しゃべる文字盤九分割練習

この患者さんはある神経難病で認知障害もあると診断されました.主治医からコミュニケーションエイドの可能性を探るようお話がありました.

この方の身体は固く,車いすに座ると正面を向き少しも動かず姿勢も崩れません.また表情は乏しく,両手の動きは少なく非常に緩慢でした.発話は全くなく,少し開いたまぶたも1分ほどで閉じ,やがていびき状の寝息をたてて十数分間程度居眠りしているような状態になります.その後まぶたをうすく開き,以下これを繰り返します.声をかけても反応はほとんどなく,聞こえているのかまた見えているのかもはっきりしません.

初めはこのように手も足もでない状態でした.


この状態を改善するために担当看護師はベッドサイドにラジオを持ち込み一日中放送を流し,また頻繁に声掛けも行いました.

私も毎日お会いして話を(一方的に)しました.やがて笑い話に口元がゆるむように見えることがありました.担当看護師からも笑っているような時があると聞くようになりました.どうやらいくらかは聞こえてそれなりに反応しているらしいことが私たちにもわかるようになりました.また窓辺でいる時にうっすら明いた目で窓の外のトンビを追いかけていました.どうやらそれなりの視力もあるようです.

このような観察と並行して,操作スイッチのための随意運動の検討もおこないました.具体的には手を握って合図を送る遊びを試してみました.初めはうまくいきませんでしたが,徐々に実にゆっくりした『返事』がもらえるようになりました.

PPSスイッチの写真はじめにまばたきを試しました.しかしまばたきは機敏ではあるものの自然なまばたきと意思をこめたまばたきを使い分けられません.その一方手の握りは確実さがあるもの機敏さに欠ける(合図してから数秒以上かかる)状態でした.また握る力も一定せず一般のスイッチでは対応できませんでした.そこでパシフィックサプライ社のPPSスイッチをエアバッグで使うことにしました.そしてPPSスイッチのブザー音を使い,握り操作のタイミングをはかる練習をしました.

名前を呼んだら握ってブザーを鳴らす練習によって握り動作が円滑になるとともに,コミュニケーションの下準備がすすみ,やがて「今日はいい天気ですね」にブザー音の返事が来るようになりました.

このあたりでようやくコミュニケーションの機が熟してきました.


この段階でも発声がなく,左右の手を別々に握り分けることもできませんでした.コミュニケーションの幅をさらに広げていくためには,コミュニケーションエイドを利用することにしました.

まず表情や目の動きを観察しながら視野を把握しました.その結果,顔の正面から1mくらい離れ,左右30センチ程度,上下1m位の範囲なら比較的反応がよく見られ,この範囲にモニタを設置することにし,そのためノートパソコンを高い位置に固定する台を作りました.

しゃべる文字盤はまず,スキャンタイプ2行1列の『はいといいえ』を使いました.パソコンの位置や表示文字のフォントを大きくなるよう調整して,スキャン時間を大きくしてゆっくりスキャンさせます.そして握り動作をすれば,そのときモニタ表示されている文字が声で聞こえるという原理を学習してもらいました.
ここでの課題は,ひらがなの『はい』と『いいえ』が見えるか,読めるか,理解できるかですがいずれも問題ありませんでした.ただタイミングよく握り動作をするために,慣れと練習とスキャン時間の調整が必要でした.

「あなたの名前は○○ですか」など簡単な質問に,はい,いいえで答えてもらう練習を行いました.
ここで,フォントの大きさで視力,スキャン速度で反応速度の能力を確認し適合をすすめました.またパソコンの位置を変えて,視野の確認と見やすい場所を確認しました.

さらに質問を徐々に家族構成や住所,生年月日,出身地,経歴などについて質問を繰り返していくと,ある一時期を除いて記憶が正確であることが分かりました.またご本人もなんだか楽しそうに答えてくれるようになりましたし,時に思い出すため考え込むようなこともありました.また活動的な時間を過ごすうちにうっすらしか開かなかった目が大きくひらくようになり,練習時間も30分をこえるようになりました.訓練以外でも活動的な時間が増えていきました.


四分割色文字盤の図二分割の『はい』と『いいえ』の次には四分割の色文字盤を練習しました.これは四行一列の文字盤に4色を表示し,選択すると色を読み上げるものです.文字表示より視力の負担が軽いところが特徴です.

この方は四色選択の後文字の四分割,二行二列の四分割と徐々にすすみ,小さなフォントや画数の少ない漢字も見えることを確認していきました.最終的には一番上の写真のように三行三列の九分割文字盤で練習し,そのうち7つのことばを使えるまでになりました.『ありがとう』や『おはよう』など言葉は限られますが,ご本人やご家族の精神的QOL面ではいくらかお役に立てたと思います.


その後,この方は施設に移られることになりました.しかしパソコンを持ち込むことがかなわず,道具を使わない代わりの方法を練習しはじめました.それは,向かい合って両手をつなぎ,YESだったら右手,NOだったら左手を握る方法です.この方法は手間がかかり,長い文章や複雑な内容にを伝えるには適しませんが,数字を伝えやすい利点もあります.家族の人数,同僚の人数,生年月日,『昭和38年』もこの方法で伝えることができ,この方は数字をしっかり記憶されていることもわかりました.

今回,コミュニケーションの開発により生活をいくらか改善できる経験をさせていただきました.改めてコミュニケーションの重要さとそのためのツールやエイドの不足を実感しました.またコミュニケーションエイドの普及とともに受け入れ側の環境整備の必要性も感じました.これからも改善を続けていきたいと思います.


 ここで紹介いたしました,しゃべる文字盤スキャンは,こちらからダウンロードできます.

二分割『はい』と『いいえ』の紹介とダウンロードは,こちらです

方法,下記の青文字を『右クリック』→『対象をファイルに保存』でパソコンに保存できます.

しゃべる文字盤スキャン4分割色文字盤 Speaking_Com_Boad_Scan4colors.xls

しゃべる文字盤スキャン4分割色文字盤用音声  s_for_4colors.lzh

しゃべる文字盤スキャン9分割あいさつ文字盤 Speaking_Com_Boad_Scan4colors.xls

しゃべる文字盤スキャン9分割あいさつ文字盤用音声  s_for_3x3aisatu.lzh

上のエクセルファイルは圧縮してありません.一番下のサンプル音声はLZH形式の圧縮されています.使用するには解凍しなければなりません.Lhasa などを使い解凍します.(窓の杜,Lhasaのページはこちら)
WindowsXPの正規ユーザならば,マイクロソフト純正の解凍ソフトが使えるそうです. (窓の杜,NEWSはこちら)

解凍すると, s というフォルダができ,中にはサンプル音声ファイルがあります.これらをご使用になるエクセルファイルと同一の場所に保存します.エクセルファイルが文字盤本体です,これを開くと,上の図のような文字盤が表示されます.このファイルから同じ場所にある,フォルダ s の音声ファイルを呼び出して再生しますので,これらの位置関係や名前を変更すると,音声は再生されません.ご注意ください.

エクセルファイルには保護をかけてありません.いろいろとやっていただいてけっこうです.その結果,正常な動作をしなくなった場合は,再度ダウンロードしてください.


しゃべる文字盤スキャンの動作にはエクセルのマクロを使用しています.使用前にエクセルの設定変更が必要です.設定の方法は,ツール>マクロ>セキュリティーでセキュリティーレベルを(中)にします.この設定では,起動時にマクロを有効にするか尋ねてきますので,有効にするをクリックします.起動できると,自動的にスキャン動作が始まります.

ESCキーを押すと停止します.1回で停止しない場合には,2,3回押してください.停止してよいか尋ねてきますので,「はい」をクリックすると終了します.「いいえ」をクリックすると,再開します.ここで「はい」をクリックしたあとでも,CTRL+Aで起動します.

セルに塗りつぶしの色が付いた時にマウスの右クリックをすると,発声します.セルの選択色,背景色,文字色や,スキャン時間間隔は,OPTIONのシートで設定できます.


操作スイッチについて

『しゃべる文字盤スキャンシリーズ』の操作はマウスの右クリックで行います.しかし,マウスの操作がうまくいかない場合には特殊なマウスを用意された方がよいと思います.それは,マウスを改造して右クリックの配線を外部に取り出し3.5mmのミニジャックをつけたものです.ここに別のスイッチをつないで使います.

腕に覚えがある方なら,ご自分でお作りになることをお勧めします.安くて早くて故障しても自分で直せます.
それ以外の方は,製品の購入をご検討ください.これらの商品は,こころWeb(http://www.kokoroweb.org/)やAT2ED(http://at2ed.jp/)などで紹介されています.

改造マウスを通信販売で取り扱っているところもあるようです.『改造マウス』をキーワードにして検索してください.

みなさんのご意見を今後の開発や改良のためお聞かせください.私も助かります.


09/11/28 公開

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