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『しゃべる文字盤 電子メール』

Microsoft Excel for communication aids

音声のコミュニケーションエイド(VOCA)では目の前にいる人にしか言葉がとどきません.でも電子メールを使えば離れたところにいる人にも思いを届けることができます.ところが携帯電話やパソコンをうまく使えなかったり,使い方を覚えきれないためにメールをあきらめる方もおられます.

このたび電子メール送受信機能を備えた『しゃべる文字盤 電子メール』を開発し『しゃべる文字盤シリーズ』に追加しました.これまで電子メールをうまく使えなかったユーザを想定して,思い切り機能を削り操作をシンプルにしました.『しゃべる文字盤スキャン50音』を使える方なら,もう少し練習したら電子メールが使えるようになるかもしれません.


概要

受信文字盤

受信 文字盤

『しゃべる文字盤 電子メール』は7枚のワークシートで構成されています.まず起動すると上の図のような「受信」の文字盤(ワークシート)が開きます.その後自動的に新規メールを受信し,新しいほうからメールを5件表示します.左の一列でスキャン動作を開始します.A3からA7セルにはメール受信順の番号が表示されます.この番号を選ぶとB8セルにメールの内容が表示されます.▲や▼で次の5件を表示します.「じゅしんする」で新規メールの受信をします.「そうしんへいく」で下のような「送信」の文字盤(ワークシート)に切り替わります.「おわり」で停止します.


送信文字盤

送信 文字盤

「送信」の文字盤(ワークシート)に切り替わると,まず送信先を選ぶため,B4からJ4セルをスキャンしますのでメールの送り先を5つから選びます.ここで選んだ名前はB1セルに○○へと表示されます.(送り先のメールアドレスは「設定」ワークシートで別途指定します)B2セルは件名です.しかし初心者ユーザの負担軽減のため件名の入力は省略しました.(「設定」ワークシートで指定した文が自動的に入りますので,支援者が入力,変更します)
送信先を決めると送信文の作製になります.使用方法は『しゃべる文字盤スキャン50音』と同じです.あまり長い文章は表示しきれません.A7「あてさき」では送信先選択をやり直せます.A8「メールをおくる」では送信します.送信が成功すると「送信できました」と声で知らせます.失敗すると「エラーが発声しました」と知らせます.A9「じゅしんへいく」では「受信」ワークシートに切り替わります.

ユーザが操作できるのは,送り先を選ぶことと,短文を作文することと,送信することです.

漢字変換はできません.


設定ワークシート

設定 ワークシート

「設定」ワークシートでは,各種の設定を行います.B2からB7は表示やスキャン関係の設定です.各部分の色を適切に設定すると,『色覚バリアフリー』などと呼ばれる視覚の補助が可能です.(見えにくい不便な設定も可能です.全て同じ色にすると全く見えなくなりますのでご注意ください)B6ではスキャン間隔を秒単位で指定します.繰り返し回数は,子スキャンで入力がない状態を何回繰り返すと親スキャンにもどるかを指定します.

B12からB16は電子メールに関する設定です.B12はSMTPサーバー名,B13はメールアカウント名,B14はパスワードです.これらは現在お使いのメールソフトと同じ設定にしてください.ご家庭でお使いなら詳細は契約されているプロバイダ,職場などでしたらネットワーク管理者の方にお尋ねください.この部分はきちんとしないと全くメールはできません.B17は受信したメールをメールサーバーから削除するかどうかの設定です.受信の際にメールサーバーから削除する場合は,1 削除しない場合は,0 を記入します.

受信後メールサーバーからメールを削除するか?
本来なら,受信したメールはメールサーバーから削除する設定にします.しかし別途使用中のメールアカウントを利用して『しゃべる文字盤電子メール』を試しに使用する場合には注意が必要です.重要なメールが,『しゃべる文字盤電子メール』に受信されメールサーバーから削除されると,メール行方不明のトラブルの原因になるかもしれません.
電子メールの扱いに自信がもてない,よくわからない場合はメールサーバから削除しない設定にする事をお勧めします.ただしこの設定では受信するたびに同じメールが届きますので少しややこしいデメリットもありますがなにより安心です.

B21からB25は,「送信」ワークシートのB4からJ4の送信先アドレスを設定します.

送受信記録関係は送信したメール数と受信したメール数を管理しています.自動的に書き換えられます.この数値を使って受信履歴や送信履歴の書き込みを行いますので,特に理由のない限りは変更しないことをお勧めします.


その他のワークシート

「取説」のワークシートには使い方の簡単な説明があります.
「受信履歴」のワークシートには受信したメールが保存されます.「送信履歴」のワークシートも同様です.一行にひとつのメールを保存します.エクセルのワークシートはの上限(約65000件)を越えるとエラーが出ます.メールの整理や削除は支援者がしてください.その際,削除するメールのある行を選択して,編集→削除をしますと行が削除されます.(ここで削除(Deleteなど)しますと文字が消えて空欄の行が残ります.)最新メールの行番号を「設定」ワークシートの受信履歴メール数に記入すると,これらか受信するメールは次の行に記録されます.
「更新履歴」は更新に関する覚え書きです.


解説

事例 送信先の変更の方法

送信先は,標準では「ママ」「パパ」「おばば」「おじじ」「せんせい」としてあります.これらは変更できます.例えば「ママ」を「お母さん」に変更するには,(「受信」文字盤で「おわり」を選択するか,ESCキーを押して)スキャン動作を停止した状態で,送信ワークシートのB4を選択し,キーボードで入力します.この際,フォントの種類や大きさの設定もできます.(通常のエクセルの操作とまったく同じです)この文字がそのままあてさきに入り,お母さんへ と表示されます.どんな文字でも使えます.実際のメールアドレスは,設定ワークシートで設定します.B4を選択した際の音声は to1.wav です.標準では「おかあさん」と発声します.この音声ファイルを自作しますと,「おかあちゃん」でも「おっかさん」でもどんな声でも音でも自由にできます.(音声ファイルの作り方は,『しゃべる文字盤』用音声ファイルの作り方 をご覧ください)
さらに「お母さん」の文字の上にその人の写真を貼り付けたり,その人自身の声で音声ファイルを作るといった工夫もできます.このような工夫の余地がたくさんあります.


『しゃべる文字盤シリーズ』の最大の特徴はMSエクセルで作っていることです.
エクセルで作ることで様々なメリットが得られます.

まず一番のメリットは,使う人に合わせこみのための変更が多くの人が簡単にできることです.上の文章でも説明しましたが,セルや文字の色,スキャンの動きのほか,画面に表示されているセルの大きさ,文字フォント種類,さらに文字そのものも自由に変更できます.さらに文字の代わりにイラストや写真など画像も使えます.例えば「メールをおくる」を大きなフォントで「送」ともできます.また,ユーザの視界の幅が狭いなら文字盤全体を縦長にすることもできます.ユーザの視界や認知に合わせて文字盤配置を作ることができます.

そしてこれらの操作が,エクセルと同じ手順で(エクセルそのものですからこれは当然ですが)マウスとキーボードで簡単にできます.多くの人が使い方を知っているエクセルを使ってコミュニケーションエイドをつくる第二の理由はここにあります.もしその人がエクセルの使い方がわからなくても,家族やお知り合いがわかるかも知れません.基本的使い方の解説書は,図書館などで借りることもできます.

これでコミュニケーションエイドを使う人と応援する人のハードルの両方を低くすることができます.

コミュニケーションエイドがうまく使えなくて困っている人のそばにいる誰でもいいですから,パソコンを操作して,見えにくいところ,わかりにくいところ,使いにくいところを修正することができます.これまでは,見えないから,わからないから,できないから,そして使用しているコミュニケーションエイドがそうなっているからしかたがないなどとあきらめるしかなかった場合でも,違う結果を導き出すかもしれません.

従来はこのような『現場の工夫』を発揮する余地があまりありませんでした.


 また『しゃべる文字盤』自身がエクセルファイルですので,コピーして誰かにあげるといったやりとりが簡単にできます.もらった人も普通につかえます.また電子メールを使ったサポートも広がりが予想されます.

『しゃべる文字盤スキャン』で動くエクセルを見て驚かれた人もおられると思います.何でエクセルが動くのか?今回は電子メールの送受信をしています.何でエクセルでメールができるのか?

これらは全て,エクセルのマクロ機能を使っています.関心をお持ちの方はリンクのページのパソコン関係をご覧ください.参考にさせていただいたサイトを紹介しております.その他インターネットで,「エクセル」「VBA」などで検索されてもよろしいでしょう.パソコンとエクセルとこのような知識があれば,いろいろと役に立つ道具を作ることができます.これを機会に新しい勉強をされてはいかがでしょうか?


『しゃべる文字盤電子メール』を使う準備

『しゃべる文字盤電子メール』を使うには,まず使用するパソコンをインターネットに接続する必要があります.すでに電子メールをお使いになっているパソコンをお使いになることをお勧めします.またウィルス対策ソフトなども必要です.

次にマイクロソフトエクセルが必要です.ほとんどの場合はすでにインストールされていると思います.マイクロソフトアップデートで最新の更新を入手してください.

『しゃべる文字盤電子メール』で電子メールの送受信を行うには,BASP21のインストールが必要です.

BASP21とは伊南村出身のBABAさんがお作りになりフリーソフトとして公開されているDLLです.『しゃべる文字盤電子メール』はこれを利用してメールの送受信を行っています.BASP21のおかげで『しゃべる文字盤電子メール』を作ることができました.作者のBABAさんには深く感謝いたします.
BASP21の詳細,ならびにダウンロードは下記のページをご覧ください.
BASP21のページ

BASP21のページは下の図のようです.必要な作業は,
赤矢印1 BASP21-2003-0211.exe をダウンロードし,実行する.
青矢印2 Bsmtp20070531.lzh をダウンロードし,解凍する.解凍された Bsendm.exe と Bsmtp.dll を C:\windows\system32 へ上書きコピーをする.
(ご注意:上の説明の意味がよく理解できない人は,トラブルを予防するために手助けを誰かにお願いすることをお勧めします)

BASP21の図
basp21 サイト 案内図

『しゃべる文字盤』で送受信したメールの記録を保存するために,cドライブのルートに maildata という名のフォルダを作ってください.(c:\maildata)このフォルダには一時的にテキスト形式のファイルが保存されます.このファイルは適宜消去しても問題ありません.


『しゃべる文字盤電子メール』は,こちらからダウンロードできます.

方法,下記の青文字を『右クリック』→『対象をファイルに保存』でパソコンに保存できます.

しゃべる文字盤電子メール SCB_M_ta.xls

しゃべる文字盤電子メール用音声  s_Email.lzh

上のエクセルファイルは圧縮してありません.一番下のサンプル音声はLZH形式の圧縮されています.使用するには解凍しなければなりません.Lhasa などを使い解凍します.(窓の杜,Lhasaのページはこちら)
WindowsXPの正規ユーザならば,マイクロソフト純正の解凍ソフトが使えるそうです. (窓の杜,NEWSはこちら)

解凍すると, s というフォルダができ,中にはサンプル音声ファイルが100個ほどあります.これらをご使用になるエクセルファイルと同一の場所に保存します.エクセルファイルが文字盤本体です,これを開くと,上の図のような文字盤が表示されます.このファイルから同じ場所にある,フォルダ s の音声ファイルを呼び出して再生しますので,これらの位置関係や名前を変更すると,音声は再生されません.ご注意ください.

エクセルファイルには保護をかけてありません.いろいろとやっていただいてけっこうです.その結果,正常な動作をしなくなった場合は,再度ダウンロードしてください.


『しゃべる文字盤スキャン』の動作にはエクセルのマクロを使用しています.使用前にエクセルの設定変更が必要です.設定の方法は,ツール>マクロ>セキュリティーでセキュリティーレベルを(中)にします.この設定では,起動時にマクロを有効にするか尋ねてきますので,有効にするをクリックします.起動できると,自動的にスキャン動作が始まります.

ESCキーを押すと停止します.1回で停止しない場合には,2,3回押してください.停止してよいか尋ねてきますので,「はい」をクリックすると終了します.「いいえ」をクリックすると,再開します.ここで「はい」をクリックしたあとでも,CTRL+Xで起動します.


操作スイッチについて

『しゃべる文字盤スキャンシリーズ』の操作はマウスの右クリックで行います.しかし,マウスの操作がうまくいかない場合には特殊なマウスを用意された方がよいと思います.それは,マウスを改造して右クリックの配線を外部に取り出し3.5mmのミニジャックをつけたものです.ここに別のスイッチをつないで使います.

腕に覚えがある方なら,ご自分でお作りになることをお勧めします.安くて早くて故障しても自分で直せます.
それ以外の方は,製品の購入をご検討ください.これらの商品は,こころWeb(http://www.kokoroweb.org/)やAT2ED(http://at2ed.jp/)などで紹介されています.

改造マウスを通信販売で取り扱っているところもあるようです.『改造マウス』をキーワードにして検索してください.

右クリックをしたときにマウスカーソルがデスクトップやエクセルのワークシートにあると各種のメニューが表示されます.これがなかなか目障りです.また開発を進めていくと不具合もあるようです.近いうちにこの点を改良したいと思います.

みなさんのご意見を今後の開発や改良のためお聞かせください.私も助かります.


 まとめ 父ちゃんのポーが聞こえなくても 

富山県高志リハビリ病院と同じ敷地に富山県立高志学園があります.高志学園は昭和52年に現在の場所に移転してきましたが,それ以前は富山市西部の高山線の沿線にありました.付近は今では閑静な住宅街になっていますが,そのころはのどかな場所だったようです.
そのころ,高志学園に入園した娘を励ますために,機関士の父親が近くを通過するときに蒸気機関車の汽笛をならしたそうです.この話は映画化もされました.『父ちゃんのポーが聞こえる』です.

感動的な話ですが,同じことを今やったら苦情でさぞかし困ったことになるでしょう.
つくづく感動の少ない時代なのだと思います.

かわりに,電子メールを使いましょう.今は汽笛をならさなくてもコミュニケーションできるいい時代なのですから.


2009/6/3  公開

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