非侵襲的脳刺激治療外来

脳血管障害や脳外傷などの中枢神経障害後の機能回復の促進を目指す

傷害を受けた脳の可塑性(plasticity)の促進や、可塑性の異常(maladaptation)によって生じた神経障害の改善を目指すもので、いわゆる機能回復神経学(restorative neurology)にあたるもので、現在ではニューロリハビリテーション(neurorehabilitation)と呼ばれるものです。当院では磁気刺激装置が平成11年から導入されましたが、これを用いて反復経頭蓋磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation, rTMS)を行い、半側空間無視や失語症などの従来のリハ訓練だけでは改善が困難な難治性の障害への治療を試みてきており、その成果は多くの学会や、学術誌などに報告しています1)〜5)。rTMSは、その刺激頻度から大きく、1Hz以下の低頻度刺激と、1Hz以上(主に5Hz以上)の高頻度刺激の2つに分けられます。低頻度rTMSは刺激直下の脳組織に抑制的に作用し、高頻度rTMSは促通性に作用すると考えられており、rTMS治療はこの作用により傷害を受けた脳の可塑性・再構築を促すものです。

大脳は、健常な状態では左右半球は互いに抑制しあって拮抗し、均衡した状態にあり、脳機能が正常に働いていると考えられています(interhemispheric rivalry)。もし、一側の半球が傷害されると、この左右のバランスが崩れ、傷害と反対側の健側半球は対側からの抑制がとれて過活動の状態となり、これによりさらに傷害半球への抑制が増強して、傷害半球の機能が一層低下することになります。半側空間無視(図1)や失語症などの発症機序の一つとして、このような病態が考えられています。この不均衡状態に対しては、低頻度rTMSで健側半球を刺激してその過活動を抑制するか、または傷害半球に高頻度rTMSを与えることでその機能を高めて、左右半球間のバランス異常を是正することにより、機能障害の改善が期待できます。当科では現在までに、半側空間無視や運動性失語症で傷害半球に低頻度rTMS治療を行い、その有用性を報告してきました1)~7)。

平成22年12月からは新しい磁気刺激装置が導入されました(図2)。この装置によりrTMSの効果をさらに高めることを目的に、シータ―バースト刺激(theta burst stimulation, TBS)8)(図3)という新しいrTMS刺激法を用いて、最近片麻痺における上肢機能障害(麻痺や運動失調)や失語症などの治療を作業療法科や言語聴覚科と共同して行っています。TBSは、20ms間隔(50Hz)、3発の刺激を、5Hz、2秒間与えるもので、これを20回連続的に刺激する連続性(continuous)TBS(cTBS)と、8秒おきに20回刺激する間歇性(intermittent)TBS(iTBS)の大きく2つに分けられ、前者のcTBSは刺激直下の脳組織に対して抑制的に作用し、後者のiTBSは促通性に作用します。TBSの作用は通常のrTMSよりも効果が強く、効果の持続が長いとされており、現在はこの方法を用いてrTMS治療を行っています。現在作業療法科と共同して、傷害半球にはiTBSを、またそれと同時に麻痺肢前腕伸筋群には随意運動介助型電気刺激(IVES)を行う併用療法(ハイブリッド療法と名付けています)を新たに行っています(図4)。現在まで、片側の運動失調を主症状とする脳卒中において、特に巧緻運動障害(器用さ)、関節能動運動可動域、Motor Activity Log(MAL)での患肢の使用頻度・動作の質を有意に改善することことが分かり報告しました7).今後は、もう一つの非侵襲的脳刺激法の一つである経頭蓋直流電気刺激法(transcranial direct current stimulation, tDCS)の導入も近々行われる予定であり、非侵襲的脳刺激治療(non-invasive brain stimulation, NIBS)をさらに発展させていくつもりです。

現在、当科で行っているrTMS治療の対象の神経障害としては以下のものがあります。
太字は特に重要なもので、これらは病院の倫理委員会でも承認されています。

  • 片麻痺における上肢機能障害(麻痺・運動失調・巧緻運動障害.作業療法科と共同)
  • 高次脳機能障害失語症、半側空間無視(言語聴覚科や作業療法科と共同)
  • ジストニアなどの不随意運動
  • 嚥下障害(言語療法科、消化器内科と共同)
図1
rTMS/TBSにより半側空間無視が改善する機序
表2
マグラピッド時期刺激装置
図3
Theta Burst Stimulation, TBS(Huang et al,2005)
表4
片麻痺に対する治療戦略

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