インタビュー

大岩 花音さん

大岩さんは、幼稚部から高等部までを聴覚総合支援学校で過ごし、現在は富山県庁の「民間活力導入・財産活用課」で、お仕事をなさっています。両耳難聴で、片耳に人工内耳を装用しておられます。今日は、今まで歩んできた人生を振り返り、学校生活のことやその時に考えたこと、感じたこと、現在のお仕事をする上で周囲の方からの配慮などについて質問させていただきます。よろしくお願いいたします。

Q. 支援学校は通常学級よりはいろいろな配慮が行き届いていたと思いますが、それでも「聞こえにくい」「聞き取れない」などの場面はなにか覚えていますか?

支援学校では、通常学級に比べてさまざまな配慮が行き届いていたと感じています。私は口話と手話の両方を使うことができたので、日常の会話で困ることはあまりありませんでした。先生方が手話やジェスチャーを使って伝えてくださることが多く、内容を理解できていました。聴覚総合支援学校では、知的障害のある生徒と一緒に活動する場面がありました。人によっては、話すスピードが早くて聞き取りにくいことがあったので、筆談をお願いしたり、ゆっくり話してもらうように伝えたりしながら、無理のない方法でコミュニケーションを取っていました。

Q. 学校の中で、会話に入り込めずに苦労したという体験談がありましたら教えてください。

受験の際に地域の高校を見学したことがあります。そのとき、教室が広く音が入りにくかったため、ロジャー(補聴援助システム)を使いましたが、それでも聞き取りにくいと感じました。その経験から、聞こえに対する環境が整っている支援学校のほうが、私にとっては授業の内容が頭に入りやすいと実感しました。

Q. 家庭内でのコミュニケーションのルールのようなことがありますか?

後ろから急に声をかけられるとびっくりしてしまうことがあります。また、口元が見えないと内容をつかみにくいため、家では、夫や母には「必ず顔を見て話してもらう」ことをお願いしています。仕事の場面では、マスクを外したくない方がいらっしゃったり、複数人で会話が進んだりすることが多く、視線が追いつかないことがあります。そうしたときは、文字起こしアプリを使って情報を補っています。

Q. 以前はスマホの音声文字変換はなかったですよね。スマホを持っていなかったころはどうでしたか?

文字起こしアプリがなかった頃は、何度も聞き返したり、それでも分からない場合は筆談で対応したりするしかありませんでした。今は文字からも情報を得られるようになり、本当に助かっています。仕事では、当初は情報保護 の観点から文字起こしアプリの使用が認められていませんでしたが、段階的に配慮を重ねていただきました。席を前方にしてもらうことや、口元が見える透明マスクの使用から始まり、オフライン環境で使える文字起こしアプリの利用が認められました。今年度には官公庁向けの法人プランを契約していただき、文字起こしアプリが入ったスマートフォンを貸与してもらえるようになりました。勤務6年目になりますが、ここまで環境が整うまでには本当に時間がかかりました。

Q. 人工内耳手術を受けるという選択は自分ではなくお母さんが決めたと思いますけれど、そのときのお母さんの決断をいま想像するとどう思いますか。

人工内耳を装用することで、MRI の制限など、生活の中でさまざまな制約が出てくることがあります。そうしたデメリットだけを考えると、当時、母はとても悩んだのではないかと思います。それでも、言語を身につけるためには、耳から入る音の経験がとても重要だと、今の私は感じています。現在、こうして人と会話をしながら社会の中で生活できているのは、人工内耳の手術を受けるという決断があったからこそだと思っています。その選択をしてくれた母には、感謝の気持ちしかありません。

Q. 手話でのコミュニケーションのことをきかせてください。

支援学校では、周りに手話を使う人たちがいるのが当たり前の環境だったため、「手話っていいな」「使いたいな」と特別に意識したことは、正直あまりありませんでした。生徒同士は主に手話で会話をし、手話を使わない相手とは口話や筆談など、相手に合わせた方法でコミュニケーションを取っていました。また、聞こえる人との会話をよりスムーズにするために、口話の訓練も必要だと母は考えてくれていたので、幼い頃から口話の訓練にも取り組んできました。

Q. 音声・口話・手話・文字などを相手や場面によってどんな風に使い分けていますか?

口話の訓練を続けてきたこと、そして手話も学んできたことで、聞こえる人とも、手話を使う人とも会話ができるようになりました。今では、さまざまな人とつながることができるという意味で、手話も口話も身につけてきて本当によかったと感じています。

Q. 学生のころに健聴の人とのコミュニケーションで何か覚えていることはありますか?

学生時代、友人関係というよりは、習い事や近所での遊びを通して、年の近い子どもたちと関わる機会がありました。会話の中で聞き返すことは多かったと思いますが、嫌な顔をされることはほとんどなく、今振り返ると環境に恵まれていたのかもしれません。手話が分かる方が簡単な挨拶を手話でしてくれたり、こちらからお願いしなくても口元が見えるようにゆっくり話してくれたりしたことは、当時も今もとても嬉しく感じています。一方で、周囲が騒がしい場所や、会話がだんだん早口になっていく場面では、内容が全く分からなくなってしまうことがあります。そうしたとき、うまくコミュニケーションが取れないことに対して、「申し訳ないな」と感じてしまう自分もいました。

Q. 仕事は、やりがいがありますか?

はじめは、障害福祉に関わる部署を希望していて、実際にその部署で働くことができました。その経験が大きかったこともあり、その後、今の職場に異動しましたが、「まずはやってみよう」という前向きな雰囲気があり、新しいことにも挑戦しやすい環境だと感じています。思うように進まずにもどかしさを感じることもありますが、その分、うまく形になったときには大きな達成感があります。そうした積み重ねが、今のやりがいに繋がっています。

Q. 職場では聞こえにくいことは伝わっていると思いますが、たとえば名刺交換や対面での挨拶など社会人としてのやりとりに戸惑いはなかったですか?

学校ではそのようなことを学ぶ機会はありませんでしたが、新人研修のような機会があり、そこで学ぶことができました。「口元が見えないと聞き取りが困難」であることを事前に周知し、電話対応は行わず、メールでのやり取りを基本としています。今の職場は、合理的配慮が浸透しており、周囲の職員の方々も「メールでのお願い」をスムーズに受け入れてくれています。コロナ禍を背景に普及したテレビ会議なども、確認の上で活用して恵まれていると思います。

Q. 「きこえにくい自分」とどう向き合ってきましたか?

私にとって「きこえにくい」ということは、特別なことというより、日常の一部であり「普通」のことです。補聴器や人工内耳があっても、すべての音が聞こえるわけではありませんし、完全に治るものでもありません。今でも、大勢の中で自然に会話をしている人を見ると、「聞こえていたら、もっとスムーズに話せるのかな」と思うことはありますが、それも含めて「仕方のないこと」と受け入れています。ちなみに、聞こえにくい分、強風などで外がうるさい日でもぐっすり眠れるのは、ちょっとした良いところかもしれません(笑)。

Q. 地域の高校に進学しようとしたこともあったようですが、そのときの気持ちを教えてください。

地域の高校への進学を検討していたとき、学校見学で、大勢の生徒が楽しそうに会話している様子を見て、「もしこの中で私だけ会話に入りにくかったら、学校生活を楽しめるのだろうか」と不安を感じました。そう考えたとき、聞こえへの配慮が整った支援学校で、安心して学力を身につけながら学校生活を楽しむ方が、自分には合っていると思いました。学校生活は勉強だけでなく、人と深く関わる場面も多いです。一般の高校にいたら、常に聞こえへの緊張を抱え続けることになり、とても疲れてしまい、挫折を重ねて自信を失ってしまうのではないかと思いました。

Q. いま難聴と診断された小さな子どもをもつ保護者は、子育てに不安を抱えていると思います。

もし自分の子どもが難聴と診断されたら、私自身もきっと大きな不安を感じると思います。ただ、同じ立場を経験してきた当事者としてお伝えしたいのは、「そこまで不安にならなくても大丈夫」ということです。母からよく言われてきたのは、「他の子と比べなくていい」ということでした。「他の子はもっと聞こえて話せているのに」「どうしてうちの子は…」「自分の関わり方が悪かったのではないか」と思わないでほしい、と。子どもにはそれぞれのペースや特性があります。大切なのは、他の誰かと比べることではなく、その子自身と向き合うことだと思います。

Q. 難聴の子どもが他者とどのように人とコミュニケーションをとっていくのか、最初はなかなか想像することは難しいかもしれませんね。当事者として、どういう思いがありますか?

「どんなふうに育ってほしいのか」を考えることはとても大事だと聞いてきました。手話を中心にコミュニケーションを取っていくのか、口話の訓練も重ねていくのか。それぞれに良さがあり、正解は一つではありません。ご家庭として大切にしたいことを整理しながら、学校の先生や医療・福祉の専門職と相談していくことが大切だと思います。そして、たとえ話すことができるようになっても、最終的に必要になるのは「ことばの力」、つまり国語力です。たくさん会話をし、ことばに触れる時間を重ねていくことが、子どもの力につながっていくのだと思います。そのためにも、特別なことをしようとしなくて大丈夫です。我が子と楽しい時間を過ごすこと、一緒に遊ぶこと。その積み重ねが何より大切だと思います。時間や経験を共にする中で、ことばや会話は、手話でもジェスチャーでも、子どもなりに少しずつ身についていきます。

Q. 「みみえーる」に期待することはなにかありますか。

難聴は、見た目では分かりにくく、聞こえ方や困りごとも一人ひとり違います。医療や教育、進路のことなど、悩みはさまざまです。だからこそ、迷ったときに相談できる場所があることは、とても心強いことだと思います。不安や戸惑いも大きく、どう動けばよいのか分からないこともあると思いますが、専門的な視点から助言をもらえる場所があることは、大きな支えになるのではないでしょうか。一方で、「相談する」ということ自体に勇気がいると感じることもあります。本当に困ってからでないと連絡してはいけないのではないか、これくらいで相談していいのだろうか、と迷ってしまうこともあると思います。だからこそ、困っている側から声を上げるのを待つだけでなく、「困っていることはありませんか」と気にかけてもらえるような関わりが広がれば、より頼りやすくなるのではないかと思います。

Q. 学校の先生もこのインタビューを読んで下さっているかもしれません。なにか伝えたいことはありますか。

初めて難聴のある子どもを担当することになった先生は、「どう関わればいいのだろう」と不安に感じるかもしれません。通常学級であれば、「特別扱いになってしまうのではないか」と悩まれることもあると思います。けれど、配慮は特別扱いではなく、その子が学びやすい環境を整えることだと思います。そしてそれは、結果としてクラス全体にとっても分かりやすい授業につながります。支援学級や支援学校では、手話・口話・文字・ICT など、その子に合った方法を本人や保護者と共有しながら探していくことが大切だと思います。「分からなかった」と言える関係づくりが、何よりの支えになると感じています。

Q. 雑談ですけれど、新婚旅行でオーストラリアへ行ったでしょう?自分の人工内耳を作っている国へ行ったときのことを教えてください。

税関を通るときに人工内耳装用者であるという証明書を先生に書いてもらって持参しましたが、さすがオーストラリアと驚きました。私が人工内耳をつけていることを保安検査場の職員がみつけて、証明書を見せなくても問題なく通過できたのです。ケアンズ近郊のキュランダで「幸せになれる蝶」をみたり、ワニの肉を食べたりして楽しかったです。

大岩さん、長時間にわたるインタビューへのご協力、本当にありがとうございました。

ご相談・お問い合わせ

相談は無料です

まずはお電話かメールで
ご相談ください

お電話

076-438-8464

受付時間
火・水・木 9:30~16:00
(祝日・年末年始除く)