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タブレットの機器操作支援

eSSENTIAL Accessibility 社の eSSENTIAL Accessibility

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説明のYouTube動画はこちら 5分35秒 ごく小さな音が出ます

0 はじめに

カナダのトロントにあるeSSENTIAL Accessibility社は、同名のアプリを自社のサイトで公開しています。 https://www.essentialaccessibility.com/download-app

このアプリは不自由を持つ人がパソコンやタブレット等の情報機器を操作する支援を目的として開発されました。例えば、カメラを使い頭部の動きでマウスカーソルを操作するとか、ワンスイッチでマウスを操作するとか、ドラッグドロップ、右クリック、ダブルクリックの代替入力を行うなどできます。 このアプリは、誰でも無料で利用できます。ではこの会社はどうやって収益を上げているのでしょうか?想像するに従業員は数十人いるようです。

こちらはオーストラリアのカンタス航空のサイトです。 https://www.qantas.com/jp/ja/support/essential-accessibility.html

もうおわかりですね。eSSENTIAL Accessibility社はwebサイトのコンサルタント会社なのです。顧客のwebサイトを多くの人が閲覧しやすいように改善する助言をしているのです。

現在、世界的な情報保障の規制がいくつか、有名どころでは、The Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 、Americans with Disabilities Act (ADA)などがあります。これらは不自由があっても生活しやすい社会作りを目指して、広い分野で活動しています。ADAは福祉機器関係ではよく知られたアメリカの法律です。

例えばインターネットの分野では、目や耳が不自由なひとは、見えないから、聞こえないから当方のご利用はできませんとはいきません。見えない人でも聞こえない人でも別の手段でわかるように工夫しないとだめですヨという働きかけをしています。身近な例ではテレビ番組の字幕などもこれにあたります。このようにwebサイトも同様な配慮が必要なことはおわかりいただけると思います。

世界的に広く業務を展開している会社(航空会社などですね)では、多種多様な人々への配慮が求められます。例えば自分の国の法律や慣例に従っていればそれでいいとはいきません。よその国の顧客にはその国にふさわしい配慮が必要とされ、これらをおろそかにすると色々と批判にさらされることもあります。またwebページはいつでも誰でも閲覧できますので、監査、審査もいつでもできますので、外部に知られないようにとか内々でこっそりとかないしょの話は通用しません。反対に上で紹介したカンタス航空のサイトの例のような配慮を示すことができると会社のイメージをとても改善されるでしょう。

情報保障は情報バリアフリーとも言われますが、とかく目に見えにくい、わかりにくいところもあります。それをこのように誰にでもわかりやすく表現するところに価値があり、そこでビジネスとして成立するのでしょう。このように取り組みが評価され、eSSENTIAL Accessibility社のサイト( https://www.essentialaccessibility.com/ )には世界的企業のロゴが並ぶことになったと思われます。

まったく世の中にはいろいろな商売があるものです。 福祉アプリを開発して、大企業に売りこんで、その一方で不自由な人や必要な人には無料で配るなんて、じつにあたまいいですね。

さてこのアプリは、他のサイトを閲覧するとき(例えばカンタス航空以外を利用するとき)にも、SNSをやるときにももちろん役に立ちますし、そのために代償を要求されることもありません。どう使うかは使う人の自由になります。

このような eSSENTIAL Accessibility社の活動には、おおいに敬意を表したいと思います。

1 eSSENTIAL Accessibilityとweb文字盤

そこで当方で開発したweb文字盤をeSSENTIAL Accessibilityで動かしてみることにしました。このページのトップ画像は、その動画につながっていますのでその様子をご覧になってください。

web文字盤は、表示された文字盤で目的の文字や言葉をタップ(pcの場合はクリック)して入力します。この点はトーキングエイド((株)ユープラス)やペチャラ(パシフィックサプライ株)に似ています。このようにタップで入力するには、使う人が画面に触るなどある程度の運動ができることが必要です。しかし操作方法が直感的でわかりやすく取り組みしやすいといった特徴があります。

その代わり例えば、伝の心(㈱日立ケーイーシステムズ)やレッツチャット、ファイン・チャット(アクセスエール㈱)やハーティラダー(ハーティラダーサポーター)のような外部スイッチを使ったスキャン入力はできません。そのため動きが小さいとか力が足りないなどの場合には、利用がむつかしいことがあります。

上の文では、いくつかの製品の名称を列挙しました。いずれもよく使われている製品です。もしこのような製品についてもっとお知りになりたい方は、文末の参考URLで紹介しているAT2EDを参照されることをお勧めします。

ところが、eSSENTIAL Accessibility(会社の名前とアプリの名前が同じでちょっとヤヤコシイですが気にせずいきます)はパソコンやタブレットやスマホをまるごと使いやすくするアプリです。そこで動いているweb文字盤もついでにまとめて使いやすくしてもらえるならとてもありがたい(個人的感想)アプリなのです。そこでどんな具合か試してみることにしました。

2 eSSENTIAL Accessibilityの準備

eSSENTIAL Accessibilityのダウンロードサイトには、Windows用とMac用とAndroid用の3種類が用意されています。私はMacを持っていないので、Windows用かAndroid用になります。そこでAndroid用を試してみることにしました。Android用はAndroid7以上に対応ということで、中古タブレットをネットオークションで約4000円で入手しました。(この間別途手持ちのWindows10パソコンで、Windows版を動かして下調べをしたり、日本語マニュアルを探したりしました。文末参照)

やがて届いたタブレット(Lenovo TB-7504X)は工場出荷時の初期状態に戻してから新規のアカウントで登録しアップデートし、eSSENTIAL AccessibilityのAndroidAppをインストールしました。このときGoogleから、情報が漏れるとか、お金がどうだとか何回も警告が出ましたが、すべて無視しました。なにしろ初期状態ですからそのようなものはありません。そもそも知られたり無くしたりしたら困るものは、無くしやすい入れ物に入れてはいけません。でも何とかカードの落とし物もこれから多くなるだろうなあ。

タブレットやスマホの外部スイッチインターフェイスとしていくつかの方法と商品があります。調べてみると思いの外、手間もお金もかかるようです。そこで手元にあるOTGケーブル(安価なのに色々使えて便利)で伝の心付属のテクノツールのなんでもスイッチをつないでみましたが、やはりWindows用というだけあって認識されませんでした。ところが古いゲームパッドをつないでみたところあっさり認識されました。ゲーム用品はこんな場面でやはり強いようです。この他USBマウスもつながり使えるのですが外部スイッチとして認識されませんでした。

続いてeSSENTIAL Accessibilityの設定でゲームパッドの1番ボタンを1スイッチモードで使用するように設定しました。詳細はeSSENTIAL Accessibilityのマニュアルを参照してください。

さて設定も終わり使い始めます。eSSENTIAL Accessibilityの起動のまえに、Androidの設定>ユーザー補助でeSSENTIAL Accessibilityを有効にします、その際動画のように確認画面が出ますが、OKとします。

終了の場合ははじめにeSSENTIAL Accessibilityを終了してからAndroidの設定>ユーザー補助でeSSENTIAL Accessibilityを無効にします。この手順を間違うとAndroidの動作が不安定になりますが、これはAndroidを再起動すれば回復します。

その方面の方に言わせるとそんなの当然と笑われるかもしれませんが、何もしないで笑われないよりも、失敗して笑われる方が誰かのためになりますし仕事も進みますので気をおとす必要はありません。

3 eSSENTIAL Accessibilityの機能

eSSENTIAL Accessibility AndroidApp(Android用のアプリ)にはいくつかの機能があります。一通り試したところ、ハンズフリーモード(カメラで顔を認識し顔の向きでマウスカーソルを動かし停止すると自動的にタップする)とX-Yモード(外部スイッチの操作で横線と縦線をうごかし交点で自動的にタップする 動画で使用しています)がどうも有望そうに思えます。

このほかEasy Grid Mode は画面全体をグリッドに分割して、音声コマンドで操作します。Tag Mode では画面に表示されたクリックできるポイントに文字と数を組み合わせた記号を配置し、Easy Grid Mode と同様に音声コマンドで操作します。これらをうまく使うには明瞭でなめらかに発話できることが必要です。ことばや発話に不自由があったり、またコマンドを使いこなすためには理解力や記憶力も必要でしょう。

このような事情から、まずX-Yモードを試してみることにしました。

4 X-Yモードとポイントスキャン

ここでは、eSSENTIAL AccessibilityのX-YモードとAndroid7のユーザー補助のスイッチアクセスのポイントスキャン(ああヤヤコシイ)の違いを説明します。 両者は外見上よく似ていて使用する目的もほとんど同じです。しかし使用感にはかなり違いがあります。

ポイントスキャンでは、青の横線が上から下へ移動しスイッチで停止する、続いて縦線が左から右へ移動しスイッチで停止し交点で任意の場所が選択される。その後下図のようにメニューが開き、その交点で行う操作を、選択、長押し、上下左右のスワイプ、ピンチアウト、ピンチイン から選択します。

ポイントスキャンのメニュー

このため、ポイントスキャンでweb文字盤を操作すると、文字盤の目的のコマを選んだあとメニューから「選択」を選ぶ操作が必要になります。ポイントスキャンはいろいろな機能を使い分けできるところが特徴なのですが、同じ動作を繰り返す場合にはこの特徴がアダになることもあります。web文字盤をポイントスキャンで操作しようとするとここで行き詰まることが少なくないでしょう。

一方、eSSENTIAL AccessibilityのX-Yモードでは、交点が決まると即入力できるので快適に入力作業ができます。

このような両者の違いは実際に使ってみないとわからないこともあります。またここで説明した例は優劣の問題ではありません。それぞれ異なる特徴を持っているのです。支援する人はこれらの特徴と使う人の特質を正しく理解し、お使いになる人に良いアドバイスができるようになっていただきたいと思います。

このようにそれぞれ特徴が異なる道具や『人材』(よくある話題ですね)の有効活用には人並み以上の苦労がつきもののようです。

昔は利用できる機器が少なく、選択の余地があまりなかったのでこのような苦労はあまりありませんでした。あるものや使えるものをガマンして使うしかなかったのです。今このような状況は急速に終わろうとしています。支援する人の苦労は増えますが、使う人のガマンは少なくなる可能性はあります。このように苦労が報われる場合は苦労が報われない場合よりも苦労が増えます。やりがいのある仕事は苦労が多いものです。

以上のような作業の結果、このページトップの動画のようにタブレットを操作できるよう になります。

5 スキャン方式について考える

スキャン操作は、重度な麻痺をもつ人がパソコンなどの情報機器を操作する方法として知られています。まずその人の意志を表出するためスイッチをオンオフできるようにします。これには軽い力で動かせる小さなスイッチ、微細な皮膚の動きに反応するセンサ、瞬きに反応するセンサ、筋電を捉えるセンサなど様々な技術が使用されます。

これに対して、選択肢(ABCなど文字、数字など)を順に提示し、目的の表示に合わせて合図して意図を伝える方法がスキャン方式です。古くはホーキング博士の道具、伝の心、レッツチャット、ハーティーラダーなどが、このスキャン方式を使っています。この方法が長い間、標準的な方法でした。

当時はその他の選択肢がありませんでしたので、それがあたりまえと思われていました。私もそう思っていました。しかしコミュニケーションエイドを紹介した際に患者さんの表情が一天にわかに掻き曇る(ちびまる子ちゃんの顔に縦線が入る状態)のを何回か目撃しました。

確かに実際自分でやってみると、なんとも言い切れないじれったさがあります(感じ方には個人差があります。)また選択肢の提示(多くは機械による提示)にあわせて操作することに対して「やらされている感」もありました。そこで患者さんのもっと主体性を持てる方法に対する要望は私の『宿題』になりました。

例えばジョイスティックやゲームパッドの十字キーなどを操作できると、ゲームを含む多くのアプリケーションを利用できる可能性が増えて、これによりユーザの満足感はかなり高くなります。しかし重度の麻痺などのためそれらがうまくいかない場合には、コミュニケーションエイドや一部の家電リモコンアプリなどスキャン方式で利用できるものに利用が限られ、結果として『コミュニケーションエイドに閉じ込められたような状態』になり、このような状態にご不満な方にもよくお会いしました。

このような事情はいづこも同じようで、ワンスイッチで操作できるマウスや顔や目の動きで操作できるマウスに対するニーズが広がり、これまで何種類かの機器が開発され、続々と新しい機器やソフトが出現しているのが現状です。

Androidに標準のスイッチアクセスもeSSENTIAL Accessibilityもこのような流れの中で現れたものです。紹介した動画ではweb文字盤を操作したあとAndroidを操作してweb文字盤を閉じています。このあと続けて他のアプリを使うこともできます。これは『閉じ込められたところ』からひとつ抜け出すことができているのです。その意味で『宿題』も果たされようとしています。

6 おわりに

自分で立てない、歩けない、持てない、話せない不自由は古くから多くの人々を悩ませ苦しませてきました。これらは古くからある苦しみです。

最近は、パソコンができない、netができない、LINEができない、スマホができない不自由で多くの人々が悩み苦労しています。パソコンが就業につながることもよくあります。これらは新しい苦しみと言えます。

これから先はどんな苦しみがやってくるのでしょうか。また古い苦しみがなくなることはあるのでしょうか?こう考えるとこの仕事も果てしないもののようです。

参考URL

eSSENTIAL Accessibility 関係

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2022/10/20 公開

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