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車いすメンテナンス コトハジメ 1

もし近くに車いすユーザがいて、 その人の助けになりたい、力になりたいとおもったとき、 あなたは何をしたらいいのだろうか?

タイヤ空気の入り口 バルブ

1 タイヤの空気を入れる

タイヤの空気がたくさん入っていると、軽い力で動くようになる。そして一旦動くと止まりにくくなる。これは自転車でも経験できるので試すといい。車いすは腕の力で動かす。腕の力は脚の力よりもかなり小さくしかも疲れやすい。車いすを体験すればこれも理解できる。さらに車いすユーザの多くは、体力に自信がない。馬力も持久力もたりない。これは想像できるとおもう。

こんな事情で車いすユーザのよくある願いは、自由に行きたい場所にいくこと。しかもできるだけつかれないように。二番目の願いは行った場所から帰ってくること。しかもできるだけ疲れないように。 例えるとしたら人力飛行機で飛んでいるパイロットの気持ちにかなり近い。

だから、車いすについていつも考えている。誰かが新型の車いすに買い替えたりするとみんなやってきて話を聞きたがる。どんなタイヤ?キャスタ?リム?乗り心地は?疲労は?

車いすの知識も経験も豊富な人たちは知っている。 一番大事なのは、タイヤに空気がしっかり入っているかだと。 タイヤメーカの規定どおりに入れる人も、それ以上に目一杯入れる人もいる。

車いすを使い始めて日が浅い人たちも タイヤに空気を入れもらって怒る人はまずいない。 ひとこぎひとこぎが楽になることを知っている。

認知症とかいわれている人もうれしそうにする。 『タイヤに空気』これはわかってもらいやすい話のようだ。

だから空気ポンプをもってきて空気をいれさせてもらおう。 そこから車いすメンテナンスがはじまる。

2 ムシゴムの交換

ところがタイヤに空気を入れたあと困ったことになることもある。 かなりまれなことだが、それまでなんともなかったのに空気もれがはじまることがある。 このほか朝起きたら空気が抜けていたなどということもある。 私は月に200台、タイヤなら400本くらい空気入れをする。 すると2,3回はこのような空気もれがおきる。 ボランテアの皆さんのぶんも入れるともっと多くなるだろう。

タイヤに空気を入れて喜ばれ、その後空気が漏れ始めてがっかりさせ、そこでおしまいさようなら。これではただの迷惑な話になってしまう。

ただのやさしいしんせつな人が、ステップアップして、頼りになる人になるためには タイヤの空気がふつう外にでてこないのはなぜか?そしてなぜもれるようになったのか?その理由とバルブについて知っておく必要がある。

イギリス式バルブの各部名称

上の絵(パナレーサータイヤ取扱説明書https://panaracer.co.jp/products/pdf/manual_tire_03.pdfより引用)は自転車や車いすでよく見られるバルブだ。ここに空気入れをつないで空気を入れるところだ。 このバルブはイギリス式(英式)バルブと呼ばれる。ゴムキャップを外して袋ナットを緩めるとタイヤの中の空気が出てきて、締めると空気が止まるので実際に試してみるといい。 タイヤの空気がなくなったので、これはパンクだと思ったらじつは袋ナットが緩んでいるだけでこれをしめて空気を入れたら直った。などということもある。

袋ナットを緩めて空気を出したらさらに緩めて外してみよう。ゴムキャップをはめていたネジの頭をつまんで引きぬいてみよう。時々固くて外れないこともあるがそんなときはペンチで抜けばいい。

写真 ムシとムシゴム

すると上の写真左のように金属にゴムがくっついた不思議な外見の棒が出てくる。これがムシとムシゴムだ。ムシゴムを外すと写真中央のような金属の棒が出てくる。上の穴から空気入れの空気が入ってくる、そして横の小さな穴(赤い矢印)から出て来るが、この穴は写真右のムシゴムがかぶさっている。強くポンプを押すと穴にかぶさっているムシゴムを押しのけて空気はタイヤチューブの中に入っていく。中に入った空気が元きた道を通って外に出ようとすると、ムシゴムが穴に押さえつけられているので出られない。つまりムシゴムはこんなに小さいのに弁の役割をしているのだ。

でもムシゴムを手に持ってみると誰もが思うだろう。こんな華奢なもの長くもつのだろうか。そのとおり英式バルブはシンプルな仕組みと少ない部品で役目を果たしているが弱点もある。それが耐久性が足りないことと、高圧の空気に耐えられないことだ。だからより高い安全性や耐久性が必要な自動車のタイヤでは英式バルブの代わりにこの弱点を改良されたアメリカ式(米式)バルブが使われている。これも身近にあるので観察してみるといい。これは重い電動車いすでも使われている。

話を元に戻そう、ほどほど耐久性の限界に来たところに空気を入れるとバルブがこわれて空気が漏れることがある。そんなときはムシから古いムシゴムをとり新しいムシゴムをつければいい。新しいムシゴムをつけるときは滑りにくいので、石鹸水などつけるといい。 あらかじめ上の写真左のように新しいムシゴムをつけたムシを準備しておくと作業がはかどる。

中につまったムシゴムのかすを奥に突っ込む自作の道具

こんな作業を何回もやっているととても変わったことが起きる。 古い車いすのムシを引き抜こうとしたらずいぶん硬かった。そこでペンチで引き抜いたら、古いムシゴムが中に残ってへばりつき、新しいムシゴムをつけたムシを中に入れられなくなった。古いムシゴムを外に取り出すのはあきらめて、チューブの中に押しこむことにした。太さ4ミリのネジがちょうどいい寸法だったので作業しやすいように鉄板の切れ端に取り付けた。これで作業の中断は1,2分に短縮できる。しかしここで注意が必要だ。棒が長すぎてしかも先端がとがっているとタイヤチューブに大穴があいてしまうだろう。

このように空気が抜けない理屈まで理解しておく空気漏れの原因も理解できるし問題解決の筋道もわかる。これ以外の問題でも原理を理解しそれに基づいて考えると、自力で問題解決に近づくことができる。言葉を変えると自立に近づくことができる。自立がたいせつなのは患者さんだけではない。これは覚えておいてほしい。

最近はアメリカバルブを使った車いすもある。このような理由でイギリスバルブとアメリカバルブの両方に使えるポンプがあると便利だ。このようなポンプは多くのホームセンターで入手できる。よくわからない人は自転車と自動車の両方に使えるポンプがほしいと説明すればよいだろう。ムシゴムも同様に手に入るので、身の回りにたくさん車いすがあるなら準備しておくのがよいだろう。

3 まとめ

ここで説明したことは、昭和の頃はよくある話で自分でやる人も多かった。このため高齢の人はこのような修理の知識も経験も持っている人が少なくない。自分でやるからムシをくれという人までいる。一方若い職員には、車いすの虫って何?いままで見たことない。という例も少なくない。(実はかなり多いようだ。機会があれば調査したい。)

なにはともあれ、このような21世紀になった。 この文章がいくらかでも皆さんのお役に立てば幸いである。

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