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車いすメンテナンス コトハジメ 2

パンクの修理

もし近くに車いすユーザがいて、 その人の助けになりたい、力になりたいとおもったとき、 あなたは何をしたらいいのだろうか?

修理の工具と部品

1 パンクのはなし

前回、車いすのタイヤには空気がしっかり入っていることが大切であると話をした。 そしてそのため行うべきことをいくつか説明した。

空気入りタイヤが発明されたのは19世紀のこと。 発明したのはスコットランドのダンロップさんと言われている。 彼が最初に空気入りタイヤをつけたのは自転車だったらしい。 以来多くの乗り物の乗りごこちと安全を支えてきた。 発明以来タイヤには多くの改良が加えられた。しかし空気を中に入れるところは今も変わらない。だからタイヤの歴史はパンクの歴史でもある。

現代の自動車とオートバイはほとんど、チューブレスタイヤすなわちチューブのないタイヤを使っている。 これに対して自転車や車いすのタイヤの多くは、タイヤの内側にチューブが入っていてチューブの中に空気を入れている。このため何かの原因でチューブに穴があくとそこから空気が漏れてタイヤがぺちゃんこになってしまう。この現象をパンクという。呼び名からして昔のパンクはさぞかし大きな音がしたのだろうと想像できる。

しかし、道路事情とタイヤの改善によって、いまでは道路脇に自動車を止めてタイヤを交換している人の姿を見かけることは非常に少なくなった。またパンクを経験したことのないドライバーもかなり多い。自動車ではパンクは既に死語になったのかもしれない。

休日を自転車で過ごす人が増えているようだ。それもスポーツ性の高い自転車にカラフルなウエアやヘルメットでさっそうと海岸沿いの道や峠道を走る様子はなかなか魅力的だ。 しかし自転車は自動車ほどパンクが少ないわけではない。軽い車体、細いタイヤ、高い速度、荒れた道ではこれもムリもない。しかもひとりで人里はなれた場所でパンクすると、自分で修理するしかない。あたりまえだがスペアタイヤは自転車にはない。こんな時のために道具や部品を準備しそのための練習もしているのだ。この人たちのまねをすればパンクを修理することはできる。修理作業は楽ではないかもしれないが、少なくとも峠道を上るよりは楽だろう。

2 パンク修理 手順とハードル

パンクの修理手順はおおまかに次のようになる。
1 車輪を車体から外す
2 タイヤをリムから外す
3 チューブをとりだし、穴を見つけふさぐ
4 元どおり組み立てる
はじめは1と4、次に1と2と4、最後に、1と2と3と4、と練習していくといいだろう。 自転車でも車いすでもやることは同じだ。

更に詳しい説明が必要なら、こちらを参考にするといい。 https://panaracer.co.jp/products/pdf/manual_tube_05.pdf パナレーサー社の修理説明書 このほか検索すると非常にたくさんのサイトが見つかる。

これらの説明をみて、すぐに自分でできる人もいるだろう。 しかし、道具はどうやったら手に入るのか、どこで売っているのか いくらするのか、誰に聞いたらいいのか、だれにたすけをもとめたらいいのだろうか? そんな人もいるだろう。 昔だったら町の自転車屋さんに相談すればよかった。親切でおっかないおじさんがめんどくさそうに相手してくれた。 その人たちにはいま病院や施設でよくお会いできる。みなさん引退したのだ。 今なら、ホームセンターの自転車売り場の担当の人や、趣味で自転車をやっている人が力になってくれるかもしれない。

パンクの修理の第一ハードルは、タイヤレバーやパッチ(このページ上の写真)やポンプなど必要な道具や部品を準備することだ。どんな名人でもこれらなしでは何もできない。このほか上のリンクでも紹介した、取り扱い説明書などの情報も重要だ。 ある分野では、このことを『物理的リソースを整える能力』と呼ぶらしい。 パンク修理に限らず、 手を動かして実行する仕事はどれも、このように材料や道具の準備から始まることが多い。 そしてこのような仕事に従事する人たちは、道具や素材に気を使う。仕事のよしあしがこれらでかなり決まるからだ。

二番目のハードルは集めた材料や道具や知識情報を使いこなし目標に近づくための技能の育成と向上だ。 誰でもはじめは人のまねから始まりだんだん自分でできるようになっていく。 その後は自分の仕事に改善や改良を重ねてさらに技能を高めていく。 これはスポーツ、芸術、料理などでも同じことで、ヒトの進化の過程に似ていて果てしない。 ある人は、このことを『人材リソースとしての人材育成』と呼ぶらしい。 しかしここで注意が必要だ。工夫や改善の下地として数多くの失敗や苦労や恥ずかしい思いがないと、つまり経験が余りに少ないと、ベテランのアドバイスもうまく生かせないことがよくある。 ずいぶん後になって昔誰かから聞いたアドバイスの意味がようやくわかることもよくある話だ。 このようなわけで、簡単な仕事ならそれほどでもないが、難しい仕事になるほど結果や成果には取り組む人の差がかなりでてくることになる。誰でも同じように上達していくわけではないのはしかたがない。

そして三番目のハードルが、パンクを修理した車いすを誰かが使ってよりよい日々をすごすこと。 それが二人目三人目とひろがりだんだん多くの人たちが少しづつうまくいくようになること。そして別の人もこの仕事の真似をしてこちらもだんだん増えていって。 このように仕事が役に立って、だれにとっても当たり前になること。 さらにまた別の人がパンクとは別の分野でこのような仕事に取り組んでいく。

実はここが大切だ。なにもパンク修理人で世の中があふれてもこれも困る。何事にもほどほどが大切だ。タイヤのパンク以外にも困りごとはないかと自分で考えて気がつくことも大切だ。誰もやっていないことに取り組み始めるときは、第一のハードルと第二のハードルから始めることになる。がんばってほしい。 そしてこの技能とあの技能がお互いを補完できると、困っている人の安心感もいっそう増すことになるだろう。 長い年月がかかるだろうが、ここまで来るとはじめのひとの苦労が報われる。

この文をお読みの方々、それぞれに応じて取り組むのがよいだろう。

3 パンクを減らす

かつて当院でも車いすのパンクが年に数回以上あった。その都度ホームセンターで部品を買ってきて、うえで説明したような方法で修理していた。そのうちだんだん上手になってきてタイヤ交換や修理もできるようになってきた。

あるとき、車いすのパンクしたタイヤに画鋲が刺さったままやってきた。 当時、院内の掲示物はほとんど画鋲を使っていた。 そこで、タイヤもパンクするし患者さんにも危険だということで画鋲を使わないようにおねがいし使わなくなった。

これをきっかけに車いすのパンクが激減しほとんどゼロになった。もう数年ほどチューブにパッチを当てるパンク修理をしていない。これほど効果が上がるとは予想しなかった。 結局パンク修理に一生懸命で、パンクしないように工夫するほうを忘れていた。 消火よりも防火が大事だったんだと気がついた。教えてくれた消防士さんどうもありがとうございます。

4 まとめ

パンクの修理方法について説明した。このような話をすると、やったことがないからできないという人がいる。全くその通りだと思う。やりもしないのに自然にできるようになるわけはない。できないのは多分取り組まないからだ。

多忙だからできないという人もいる。これも全くその通りだと思う。しかし忙しいひとは、考えてみてほしい。その忙しい仕事がなくならないか、やらなくてもいいようにならないか。 もしそれができるならこれもなかなかいいことだ。

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