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修理の部  ブレーキ

車いすのブレーキにはいくつかの方式があります.一般的なものでも数種類あるようです.しかしどのブレーキでも,タイヤを押さえつけることによって車輪の回転を止めようとする点が共通しています.
色々な車いすを修理点検してみた経験から,一見して似たようなブレーキにもそれぞれ特徴があることがわかってきました.特に古い車いすを主に扱っていますので,どの種類のブレーキがどのような効き方をして,古くなるとどうなって結果としてどう壊れるか,どれが長持ちして,どれが修理しやすいかなどがわかってきました.
また,病棟や訓練室のスタッフや車いすを使用している方のお話しを聞いてみると,評判のよくないブレーキもあることがわかりました.即ち,ブレーキ操作が難しい.操作に力がいる.ブレーキがよく利かない.かけたブレーキが外れやすい.などです.
また,当院で車いすをお使いになる方の様子を見ている範囲では,ブレーキの使用目的の大部分が,車いすを動かないようにするためで,車いすの減速のためにブレーキを使用することはほとんどないことがわかりました.自動車を例にするならば,パーキングブレーキ(手でかけるブレーキ)の意味合いが強く,フットブレーキ(足で踏むブレーキ)の意味合いが弱いと考えられました.
このように車いすのブレーキの使用目的を絞り込んで考えると,操作力が軽い,くいつきのよいブレーキがよろしいようです.(くいつきがよいとは,急激に制動力がかかるという意味です.自動車では車輛挙動がぎくしゃくし,バイクでは転倒しやすくなります.)

作業
写真 レバーブレーキとトグルブレーキ院内で最も評判の悪かったブレーキは,レバーブレーキと呼ばれる種類のブレーキでした.(左写真の左)これは,レバーを3カ所ないし4カ所の凹にはめ込んで,固定するタイプです.ブレーキ操作には,レバーを手前に引く動作と,外側に動かし凹にはめ込む動作が必要です.この操作方法がお使いになる方によっては十分ご理解頂けない場合がありました.またレバー操作に力がいる割に車いす制動力が少ないようです.また古くなって凹部分の金具が摩耗してくると,何かのはずみでかけていたブレーキが外れることも多いようです.このタイプのブレーキがついている車いすが当院には30台近くありました.
これを写真のような,トグルブレーキ(同写真右)に交換しました.手順は,レバーブレーキ関係の部品を全て取り除き,アルミ板をフレームにネジ止めし,これにトグルブレーキを組み付けます.
トグルブレーキは,単純な操作,機構が特徴で,修理しやすいことと安いことも魅力でした.

改良
写真 ブレーキの改良写真 ブレーキの改良拡大ブレーキがよく利くようにするためには,まずタイヤの空気を十分に入れて,ブレーキがタイヤに十分に食い込むように調整します.しかしこれではブレーキ操作に力が必要になります.ブレーキレバーを延長するなどの方法でこの問題はいくらか軽減できますが,場合によっては問題を解決しきれないこともあります.
そこで,ブレーキのタイヤと当たる面に凹凸をつけてみたところ,この問題は解決できました.凹凸をつける方法として,各種接着剤なども試してみましたが,十分な耐久性を得るためには,電気溶接がよいと思われます.太めの溶接棒を使い,電流を小さめにし,加工面をササッとなでるようにしてアークが飛ばないようにするのがコツです.(これは上手な電気溶接の方法の全く逆です.ですから電気溶接初心者でもうまく凹凸がつけられます.)
このような加工をすると,タイヤの異常摩耗などが気になるところですが,試してみたところ,摩耗の程度は極めて少なく,タイヤの寿命を縮めることはありませんでした.
車いすの安全性を向上させるためにも,現在では当院の車いすはほとんど全てにこの加工が施されています.

最近,院内事故が注目されています.そのうち転倒事故の多くは,ベッドや車いすに関係した状況で発生しています.病院の車いすをお使いいただく場合,その安全性について,今後,さらなる議論が必要と考えられます.


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はじめに

修理の部 昔と今 肘掛けの修理 さび落とし シート フレーム 車輪 アライメント ブレーキ まとめ

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03/05/15 公開

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