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修理の部  フレーム修理

いよいよ目立たない部分のお話になります.地味ではありますが,実際に車いすをお使いになる方にとっては大切な話です. 車いすが真っ直ぐ進まないというお話はよく聞きます.片手片足駆動の場合よく聞かれることですが,車いす自身に問題があることも多いです.お近くの車いすに乗ってみてください.曲がりませんか?真っ直ぐ進みますか?

車いすが曲がる原因としていくつか考えられます.
まず一番多いのは,タイヤの空気が左右どちらかが少なくなっていて,抵抗が大きくなり,その方向に曲がる場合があります.これは左右均一に空気を入れれば解決します.
次に,片方の車輪の回転が滑らかでない場合も考えられます.車輪はどれも滑らかに回転するように,掃除,注油します.前輪車軸にからまった髪の毛を掃除したら,曲がるのが直ることもあります.
これでも真っ直ぐに進まないときには,車輪の取り付け角度が狂っていることが考えられます.また車輪自体が歪んでいる場合もありますが,多くの場合は,車輪を取り付けているフレームが歪んでいると思われます.

車いすのフレームは,単純な構造の中に多くの機能が込められています.まず折りたたみ機能,そして体重を支える強度,そしてほとんどが破損するまでメンテナンスなしで使用され続ける過酷な使用条件.これらのどれかが免除されるなら,設計に余裕が出て,バラエティに富んだ製品が生まれるだろうと考えます.しかし逆に考えると,現状の車いすの完成度がいかに高いかの証拠とも考えられます.

前にもお話ししましたように,当院の車いすの半分以上が,アルミニウムのフレームです.それも80年代中頃の,アルミの車いすが出始めたころの製品がたくさんあります.新商品の出始めとは,何によらずトラブルが付き物です.この場合もそれに当てはまるのでしょうか?
ここでアルミニウムの一般的な特徴を鉄と比較して簡単にまとめてみます.アルミにはまず第一に軽いこと,さびないことそして軟らかいこと,粘りが少ないことなどの特徴があります.軽いこととさびないことは,車いすの材質として大変好ましいことです.軟らかいという特徴は,加工が容易になるなどの利点として考えられる反面傷が付きやすい,摩耗しやすいという欠点にもなりますます.ところが粘りが少ないという特徴は,耐久性の面でしばしば問題になります.長い期間使っていると,フレームがぽっきりと折れる場合がありました.
現在では,様々な改良が加えられ,アルミフレームの車いすも随分と丈夫になりました.しかし80年代は,材質,工作,また設計の面でまだ不完全だったようです.

さて車いすのフレームがどのようにこわれるかをいくつか見ていただきます.
写真 車いすのフレーム変形左の写真では,シートフレームの座シートの前半分を支持する部分が曲がって,前端部(矢印)が開いています.車いすに座るときに,座面の前半分にどしんとお尻をつく方は,ご存じのように大勢おられます.この衝撃で,シートフレームが中央寄りに変形したものと思われます.この車いすは,曲がったシートがサイドフレームの凹状の受けと組み合わないために,正常に開くことができませんでした.しかしこのような小さな変形でも,車いすは真っ直ぐに進まなくなります.この写真は,鉄製フレームの車いすです.鉄製のフレームの場合,写真の程度の変形しか見たことはありません. 
写真 アルミフレームの破断その1 写真 アルミフレームの破断その2

 右上の2枚の写真は,実際に折れたアルミフレームです.破断面を観察すると,疲労破壊に特有の縞模様がありました. 鉄フレームの車いすでも注意してみると,同じ変形が見られることがあります.しかし,変形の程度はアルミよりずっと小さく,破断したことは当院ではありません.

図 フレームの変形

この変形を防ぐために,L字の受けがサイドフレームにつけられています.この受けとシートフレームがしっかり合わさっていれば,問題ないはずです.しかし,右の図のように,受けが変形したり,折れたりすると,お手上げです.この理由はいくつか考えられます.部品の強度不足もありますが,図の左下のように,シートフレームが受けの凹におさまらず,L字型受け金具の先端部分に当たり,この状態で体重がかかると,おそらくひとたまりもないと思われます.

写真 クロスバーさらにこうなる理由を考えると,クロスバーの接合部分(左写真の赤矢印)の変形に行き着きます.接合ボルトナットがゆるんでいると,車いすの折りたたみの動きにガタが出て,受けの凹にシートフレームがはまりにくくなります.座る前に受けの凹にシートフレームがはまっているのを十分確認してから座ればよいのですが,多くの人はそこまで気をつけないでしょう.さらに悪いことに,このようにフレームにガタのある状態で,車いすの折りたたみを繰り返すと,ゆるんだクロスバー接合ボルトナットが,クロスバーのボルト穴をこじるため,特にアルミフレームの場合,ボルト穴が削れて広がり長穴になり,さらにフレームのガタを大きくしている場合があります. 
(車いすの取扱説明書の「車いすの拡げかた」の項目を見ると,「片方のグリップを持ち上げるように反対側の座面端のパイプ部を下の方に押し下げます」との記載があります.(日進医療器株式会社,車いす取扱説明書より) これは,クロスバー接合部分に無理な力をかけないようにと言う意味だと思われます.)

ここまでのフレームがこわれるお話は,あくまでも推論です.しかし最近の車いすを実際に見てみると,シートフレーム,受け,クロスバーのいずれもが,補強,改良されています.まあまあの線でこの推論はあたっているようです.

以上をまとめると,クロスバーの接合部にガタができると,車いすの折りたたみがきちんとできなくなる.するとシートフレームが受けにきちんと合わなくなる.そこに体重などの力がかかると,部品に無理な力がかかり変形する.変形したまま,折りたたみを繰り返すと,クロスバー接合部の変形や摩耗が進む.このように原因と結果が順々に入れ替わり状態が悪くなり,最後には「車いすがこわれた」という結果になると思われます.(当院では,最終的な「こわれた」状態になる前の「つかれた」状態の車いすがたくさんあることがわかりました.)
つまり真っ直ぐ進まない車いすを直そうとすると,まず上の3点を直すことから始めなくてはなりません.

作業
まずは,車輪やシートなどの部品を全て外します.
まず注目すべきは,シートフレームが,サイドフレームと平行になっているかです.これはシートフレームパイプを前方から見るとよく分かります.次に見るべきところは,シートフレームの受けが変形していないかです.最後にクロスバーの接合部にガタがないかです.
作業は,以下の順番で行います.まずシートフレームが曲がっているならば,2m位の鉄パイプ(イレクタパイプなど)を,シートフレームのパイプに前方から差し込み変形と逆方向に力を加えて曲げます.このとき力の加減に注意してください.特にアルミの場合は,力を入れすぎるとぽっきり折れて,万事休すとなります.(本当です)鉄フレームの場合は,ぽっきり折れることはまずありません.その前に変形することも少ないです.
次に,シートフレームがサイドフレームと平行になるようにします.多くの場合,前方で間隔が開き,後方が写真 クロスステー閉じて(場合によっては干渉している)いると思います.特に干渉している場合には,クロスステー(右写真の部品)が変形しています.クロスステーのボルト穴間隔が小さくなるように変形していますから,そのままプラスチックハンマでたたくか,一旦取り外して,曲げ直すかして直します.
写真 L字型金具次にL字型受け金具の変形を直します.多くの場合下に垂れ下がっていると思います.これをプラスチックハンマでたたいて直します.しかし,これを何回か繰り返すと,アルミが弱くなり最後にはぽっきり折れます.(左写真の矢印部分にひびが入っています.鉄工所さんにアルミ溶接の修理を相談したら,一カ所五千円の見積もりが出ました.)このような状態が見つかったら,廃車して部品取りにする事にしています.

写真 修理例最後にクロスバーです.フレームを平面に置き,形を整えて開きます.(本来ですと,定盤とか治具などが必要ですが,車いすのフレーム程度の剛性では,床面と目分量で十分なようです)この状態で,各部分のボルトナットを締めて行きます.何回か折りたたみを行い,これがスムースに行えれば,合格です.しかし,クロスバーの接合ボルト穴が変形しているとさらに工作作業が必要です.右の写真は,鉄板を追加し,ドリルを通した加工例です.ここまでやるとかなりしっかりします.

アドバイス
ここで説明していることは,かなり高度(?)な内容を含みます.これをやったから車いすの寿命が何年も延びるわけではありません.事情が許すならばフレームに問題のある車いすは,買い換えるのがよいと考えます.当科は,こわれた車いすから「車いすとは何か」を学ぼうとしてこれらを試みました.やれば何とかなることは確かです.せっかくの車いすを良好な状態で,長く使いたい方や,予算はないが車いすを何とかしたい方はどうぞ参考になさってください.
車いすは真っ直ぐ進むようになりましたでしょうか?当院の場合,ここまでやればおよそ半数が真っ直ぐ進むようになりました.残りの半数には,更に作業が必要です.これらはアライメントの項目で説明します.


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03/05/15 公開

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