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修理の部  アライメント

このフレームに関する部分をわかりやすく書き直して『車いすが曲がる』としました.こちらもお読み下さい.

わかりやすくいうとアライメントとは角度のことです.(非難囂々?)バスケットボール用の車いすではタイヤが斜めになって大きく開いていますが,これは相手が近づけないようにしているわけではありません.このようにすると急な方向転換が容易になるのです.このように車輪の角度(ホイールアライメント)によっていろいろな特徴が出せます.また,角度には上下,前後,左右の見る方向によっていくつかあります.

さて車いすが真っ直ぐに進まないのにはいくつかの要因が重なっています.ここでは駆動力のアンバランスなど,人間側の要因は除きます.まずは先に説明したフレームの歪みです.何しろ土台ですからここがしっかりしなければ,この上にいくら工夫をしても空しくなります.左右のタイヤの空気が同じように入っていて,前後の車輪が左右とも同じようになめらかに回っているなら,次に問題なるのが,車輪のアライメントです.そして,通常の車いすでは,後輪(タイヤ)の車軸は,地面と平行で,進行方向に垂直と見なせます.そして,後輪のアライメントがおかしくなった経験は,当院ではほとんどありません.問題は,前のキャスタのアライメントです.
キャスタのアライメントとはフォーク回転軸の傾きのことです.そんなものは地面に垂直ではないかと私も思っていました.しかしよくよく見てみると,微妙に前傾しているはずです.そしてこの角度は車いすメーカやモデルによって異なるようです. 

さて,キャスタのフォーク軸が前傾していると何が起こるのでしょうか? キャスタに荷重がかかるとキャスタのフォークは回転軸が倒れている方向と逆の方向を向く傾向が現れます.回転軸の傾斜角度が大きくなると,またかかる荷重の大きくなると,この傾向がより強く現れます.つまりフォーク軸を前傾させると,フォークが後方を向きやすくなり,結果として車いすが真っ直ぐ進みやすくなるのです.自動車のハンドルを切った状態からハンドルから手を離すと,タイヤは直進方向に自然にもどろうとします.このような効果を車いすでもねらっているのでしょうか? 

キャスタ軸の前傾は,もしかして,単に人間が乗車したときのタイヤの変形分を見込んでいるだけかも知れません.実際の所はどうなのでしょう?どなたか教えて頂けないですか?

では,なぜ車いすは真っ直ぐ進まないかにもどります.結論から言いますと,フォーク軸が左右方向にも微妙に傾斜しているからです.車いすを作るときには,おそらく定盤や治具を使いかなりの精度でフレームを溶接していることでしょう.フォーク軸の前傾角度も入念に決定されているでしょう.工場を出たときには,たぶん真っ直ぐ前にフォーク軸は傾いているはずです.それが,いつの間にか歪んでしまうのです. 
原因は,まずサイドフレームの捻り剛性の不足です.次にキャスタ取り付け部分の強度不足です.早い話がフレームが弱いと言うことです.最後にフットレスト先端やキャスタに加わる衝撃です.このような現場は院内でよく見かけます.どしんどしんとよくぶつかっています. 
ここまでわかればしめたものです.人間業で変形させた物ならば,人間業で元に戻せるはずです.ただし左右のキャスタのフォーク軸をどちらも真っ直ぐ前に傾斜させるのはそれなりの道具がないと無理でしょうから,左右のくるいの量をそろえて,符号を逆にする,すなわち右のキャスタのフォーク軸が右に傾斜しているならば,同じくらい左のキャスタのフォーク軸を左に傾斜させる事にしました.
さて実際の作業手順を説明します.準備する物は,ただ一つ,2mほどの鉄パイプです.(イレクタなど)
まず車いすのくせをつかむために試乗します.廊下など平らな路面で試乗しましょう.ある程度速度をつけてから,まず車いす中央に体重を乗せます.(普通に乗るという意味です)ここで,左右どちらに曲がるくせがあるかつかみます.次に上体を左右のキャスタのうえにおおいかぶせます.これはキャスタへの荷重を増やす動作です.左右どちらのキャスタが歪んでいるかをつかみます.多くの場合は,左右とも歪んでいます.問題は左右どちらの歪みが大きいかです.大きい方のみ修正します.歪みの方向を確認し,作業にかかります.
フレームの修正のところで説明したクロスステーを外す作業をされた方は,おわかりと思いますが,サイドフレームは,日の字型に組まれたパイプに過ぎません.捻り剛性もさほどありません.力を入れすぎる必要はまるでありません.それどころか力を入れすぎないように注意してください.フットレスト周辺かキャスタ取り付け部分の周辺に鉄パイプをかけて,フレームに足をかけて捻ります.これだけです.
あとは試乗と作業を繰り返します.何台かやればコツがつかめるでしょう.またやりようによっては,体重移動によって進む方向が変わるスケボーのような車いすも作れます.(ホントです)ただ当院にはこんな車いすで喜ぶ方はおりませんので作ってはおりません.


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03/05/15 公開

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